「…うわぁ」
きやがったな…宿敵!
決まり勝負
本日、春もはじまりの頃。
そして…この季節の定番といえば。
「身体測定、やだ」
だって私、身長のわりに重いんだもん!
部屋の隅で朝から悶々とそんなことを考えていた露海。
けれど、ときは来てしまうもので…仕方なく指示に従って、測定を終える。
「…はぁ、」
何度見ても吐いてしまう溜息。
…こんなもの、なくなってしまえっ!
どれだけそう思ったものか…。
沈んだ表情のまま、席に腰を下ろす。
すると、隣の周助が相変わらずの笑顔で、どうしたの、と問うてきて…。
思わず、睨みつけてやりたくなる。
…まぁ、実際は、しないけど。
憎たらしいほどの、その余裕。
何か言い返してやりたくて、目を向けた紙。
「…周助は、どうだったのよ」
その視線から、測定の結果のことだろうと感じて、私へと紙を渡す。
…げ。
見た後に、見なければよかったと思ったところで、もう遅い。
先よりも深い溜息を吐いて、机に突っ伏す。
その様子を見て、さすがに不思議に思ったのか、周助が声をかけてくれるのが分かる。
「どうしたの?…露海?」
…もう、何も聞かないで。
そう言って逃げたかったけれど、ひょっとして周助なら軽く流してくれるんじゃないか、って…そう思って、口を開く。
…後で冷静に考えれば…流してくれるはずなんて、なかったのに…。
「…なんで、なんで私より周助の方が軽いのよっ!」
ふ、と。
顔をあげた露海の瞳に涙が溜まっているのを見つける。
そうして、声にした言葉の意味を理解する。
あぁ、それで。
だけど、露海…、
そんなこと…僕にとっては、大した問題じゃないんだよ?
だって、ほら…
「え!? ちょ、ちょっとっ!!!」
こうして愛しい君を抱き上げても、重さなんて、まったく感じなくて…。
君のその表情が近くなることに、自然と笑みが零れる。
それに、君は気付いていないのかな…?
瞳を涙で潤して、耳まで真っ赤に染めて…それなのに、必死に抵抗するその姿が、どれだけ僕の心をくすぐるのか。
クスッ…、
僕が笑ったのに露海が気付いて、また声をあげる。
ちょっと、周助!早く下ろしてよ!
「部活で腕使えなくなっても知らないからね!!!」
そんなこと言われたって、ねぇ…。
どれだけ言葉を繋いでも、抱き上げたまま、周助は下ろしてくれない。
本当、嫌だ…、
自分より重い彼女なんて、嫌でしょう…?
だから…周助、
貴方に、嫌われてしまう前に…。
「クスッ…露海ってば、分かってないね」
僕を何だと思ってるの?
前の応えには、疑問ばかりが浮かぶ。
後ろの問いには…思わず、答えそうになってしまったけど。
…そこは、黙っておく。
「露海の重さなんて、重いとも思わないよ」
だって…、これが露海でしょう?
それに、
「そんなことくらいで、僕が露海を嫌うとでも思ってるの?」
…僕のこと、そんな風に見てたんだ?
そう言われてしまえば、否定するわけにもいかないんだけど…。
僅かに含まれた、哀しげな声が…どうしようもなく、気にかかる。
思わず、否定の言葉をはさもうとしたけれど、すぐ近くで周助の深い海色の瞳に見つめられて、何も言えなくなる。
「…っ!!!」
何か隠してるわけではないんだけど…。
その瞳に、全て見透かされてしまいそうで…。
思わず、固く目を瞑り、逸らす。
「…分かった?」
露海…──
不意に、耳のすぐ傍で周助が囁く声が聞こえる。
顔を背けて逃げようとしていた私には思いもよらず、目を見開いて、顔を赤く染めるしかない。
だけど…それでそのままなんて、カッコ悪いじゃない…。
だから、精一杯の抵抗。
「も、もう! 分かったから、早く下ろして!!!」
私は、こんなに慌ててる、っていうのに…。
周助は相変わらずな笑みで…本当、悔しい。
やっと床に足の着いた私。
先までの時を思い返して、大きな溜息を一つ。
…もう、絶対!
周助に…負けてるところなんて、教えないからっ!!!
負けっぱなしの露海ちゃん。
勝てる日は来ません(笑)
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