今は昼。
休みが終わって、午後の始め。
この時間帯は、風が涼しく、眠気に誘われる。

…そして、その頃の自主学習時間。



誘いは、必ず



「うわぁ〜…」

見たくなくなるような横文字の列。
決して量は多くないのだけれど…それでも、嫌。

「あぁ…周助ー」
意味分かんないんだけど。

つまらなそうに声をもらす私を、隣の周助が笑って見てくる。

「ほら、露海…夏休み、遊びたいんじゃないの?」
早くやりなよ。

そうやって言うけど…

周助は余裕そうな顔で先から英語の宿題を進めている。
…私の、分からないところを。

「え、ちょっと周助…私、そこ分かんないんだけど…」
教えてよ。

そう言った私に、一拍おいて綺麗過ぎる程の笑みで応える。

「いいよ」

その一言で何だか一瞬、空気が変わったような…気が、した。


「ほら、見せて…どこ?」

一瞬。

私が固まっていた間に、周助との距離が短くなっていて…
すぐ傍にいた彼に、また驚いた。
だけど、ふと、彼の問いを思い出す。

「あ…ここ」

恐る恐る、といった感じで、指させば、すっと説明に入ろうとする。

…ただ。

ペンを持った周助の手が、私の手のすぐ傍に。
体を支えるためか、反対の手は…私の椅子、の背もたれに。

…と、いうことは。

「ちょ!周助、なんか近いんだけどっ!!?」

思わず反対側へと身を逃すけれど、相手は周助。
…しかも、背には窓。

逃げられるはずもない。

でも…英語は教えてほしいし…。
やっぱり、

「もうちょっと、離れ…て、よ…」

へぇ…
「教えてもらう側なのに、そんなこと言うの…?」

うっ、と言葉に詰まる。
だけど…。

その続きを発そうと、口を開きかければ、くすっ、と小さく笑ったのが聞こえた。

「分かってるよ…露海は、僕が近くに居ると、集中できないもんね」

その言葉がなんだか恥ずかしくて。
そして、負けたみたいで悔しくて。

気づいたら、言葉を返していた。

「え!?バカ!そんな訳ないでしょ!!?」

すると、また、周助がにっこり笑ったのが分かった。

「へぇ…それじゃぁ、さっきのままで…いいよね?」
ほら、早く始めるよ。


「まず、ここは…」

結局、ぴったりと寄ったまま、説明を始める周助。

…は、はめられた!

まぁ、気づいた時には、彼の満面の笑みに、否定する勇気なんてなかったんだけど。


「露海、聞いてる…?」
「…え、あ、うん…」

その時、周助が小さく笑ったのに、私は気付かなかった。
そして、そのまま続くと思っていた説明は止まり…周助は、それじゃぁ、と私に問いかける。

「これは、分かるの…?」

優しく笑ってそう言うと、椅子にかけていた手を離し、頬を隠していた私の髪を、すっ、と耳にかけて…。
それから、顔を寄せると、流麗な言葉で囁く。

“I’m crazy of you. Nothing is too good for you.”

「え!? な、何…!!!」

少し低めの声。
いつもよりも優しいような、柔らかいような声。

そんな声で、大好きな彼に囁かれたのだから…。

ただでさえ英語の苦手な私に、その意味を理解することは、できなかった。


「うわ、不二先輩…大胆ッスね」
「露海、絶対意味分かってないでしょ〜?」

出た。帰国子女コンビ。
リョーマが皮肉っぽく呟いて、沙織が嬉しそうに私の顔を覗き込む。

そして、その表情のまま、いい提案とでも言うかのように、沙織がもう一言。

「訳してあげよっか?」

「クスッ…駄目だよ、沙織…」
それは、僕が言いたいから…──

そうやって優しく笑った彼の笑顔に一瞬見惚れていたなんて…
絶対、口にできないけど。


…って思ってる場合じゃなくて!

え、訳…だよね。
周助が…言いたい、って…何…?

そんな考えも瞬間。

彼の声が聞こえれば、私の意識は自然に彼へ向いてしまう。

「ねぇ、露海…」

さっき、英語を囁いた時のように…。
だけど、右の腕でぎゅっ、と私を抱きしめて…もう一度、彼が囁く。

「…僕は、君に夢中なんだ…君の為なら…何も、惜しくはないよ…―」

「…っ!!?」

ちょ、ちょっと…何言ってるの!!?

「え、あ、その…」

動揺のあまり、言葉が続かない私。
その顔は、耳まで真っ赤に染まっていて…。何を考える余裕もないかのよう。

いつの間にか、沙織とリョーマが居なくなっていたのをいいことに、彼は、さらに強く私を抱きしめて…。…。
それから、囁くように問うてきた。

「ねぇ、露海…僕のこと、好き?」

「…っ! 知ってる、くせに…」

恥ずかしさから、そっけなく返してしまうけど…。
でも、やっぱり彼には分っていて…。

少し手をずらして、髪を撫でるように抱く。

そうされれば…私は、素直に頷くしかできなくて…。

「……好き、だよ」

時を空けて、ぽつり、と小さく呟けば、満足そうに微笑む。
そんな彼の表情が見えたことに、なんだか少し安心して…。

だけど、そう思ったのも束の間。

「ちょ、周助…っ! 顔近……っ!!!」

否定の言葉は最後まで紡ぐことを許されない。

だけど、再び言葉が零れる頃には…。
私は、もっと…彼を、好きになるから。


…って!
なんで…こんなこと!!!

とがむような目で見れば、彼は、にっこりと笑う。

そして、

「素直に言えたから…ご褒美、だよ」

そう、さらりと。

そんなことを言われて、素直に応えられる私ではなくて…。
どうしても反発する言葉を探してしまう。

「ば、ばか!そんなのいいから、ちゃんと教えてよっ!」

顔を赤らめながら、叫ぶように言った私を、周助は可笑しそうに見て…。

それから…

「はいはい」

と、嬉しそうに笑って応えた。


…続きは、言わない…っ!




友人主導の設定と糖度にて(笑)
先生、いろよ!皆もいろよ!!てかちゃんと自主勉しなさい!←

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