「そろそろ寝る?」
時計が日付を越えそうなのに気付いて、千尋が問う。
今日は千尋の家にお泊りなのだ。
学校での話や、新作お菓子の話、それから恋の話。
少しぶりのプチ女子会は、思った以上に盛り上がってしまった。
「だね、お水だけもらってきてもいい?」
うんいいよ、と千尋が頷いたのを確認して部屋から出て歩く。
千尋の部屋からキッチンまでの間、葦原家の男性方が眠る部屋がある。
少し扉の開いている部屋から淡い水色の髪が覗いているのに気が付いて、ちらりと横目で見て。そして、すぐ逸らす。
キッチンでコップに1杯の水をもらって、なんとか心を落ち着かせた。
「…くれ、は」
大好きな、静かな声。
聞こえたのは、誰か、大切な人の名前なのだろうか。
聞いたことがないほどの優しい声に、慌ててその場を離れるしかできなかった。
「撫子?」
部屋に戻ると、どうかしたの、と尋ねてくれる千尋。
「ん、なんにもないよ?」
きっと千尋は、気づいてしまったんだろうな。
何か、私の様子が違うって。
お水ありがとね、おやすみ。
そう言って、逃げるように布団に潜る。
ぐるぐる。
まだ耳から離れない声。頭を巡る名前。
誰、なんだろう。
彼の呟きで、すっかり眠気など吹き飛んでしまった。
不安
ようやく続きが書けました。
そろそろ一区切りです。
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