あっ。
また。思いついたように千尋が言った。
「サザキとカリガネ。実は翼があって空飛べるんだよ、って……言ったっけ?」
今日も近所に住む親友の千尋の家に遊びにきた。
やっぱりこうしておしゃべりするのは楽しい。
そんな中、千尋がさらっと発した一言。
またか、まだあったのか、と撫子は頭を抱えたい気持ちを抑えて目を伏せる。
「………えっと。ちーちゃん、二人がなんて?」
「翼を持つ一族の出で空を飛べるんだよ、って」
「…………千尋っ!一回落ち着こう!」
いやだって、いきなり翼があるとか!空飛べるとか!
前回のカミングアウトで結構耐性できたかな、とか!ちょっと思ってたけど!
これは驚かずにはいられない…いや、驚かなかったら、普通じゃない。
そんなことを思っていたら、リビングに入ってくる影。
「あっ、カリガネ!おかえり」
今まさに話題に上がっていた撫子の想い人。
その彼に、千尋は不満そうに零した。
「聞いてよカリガネ、」
撫子ってばカリガネとサザキに翼があるって言っても信じてくれないの。
…ん?
いやいや!私おかしくないよね!?普通の反応だよね!?
そうつっこまずにはいられない。
現に、今目の前にいる彼の背に、翼なんて見られないのだから。
「……見たいのか?」
「えっ…?」
ふと。
カリガネが撫子に向けた言葉をきっかけに、撫子の動きが止まる。
見たいのか、って…見られるの?!
い、いや、千尋を疑ってたわけじゃないけど…やっぱり、俄かには信じがたいわけで。
恐る恐る首を縦に動かせば、彼は息をひとつ吐いた。
そして、一拍。
目の前が暗くなった。
翼の影になっている。
気付いたのは、羽ばたく音と柔らかな触感があったから。
「…ほ、本物……?」
そう呟かずにはいられない。
しかし、一瞬にして目の前に現れた事実に、これ以上何も言えなかった。
「ほら、ね?」
………信じるしかない、か。
にっこりと笑みを浮かべる千尋に、なんとか笑みをつくって返した。
「なんか…最近驚いてばっかりな気がする…」
「そんなことないと思うけど…どんどん近づいてるし、」
溜息交じりに呟けば、千尋は驚くことなんてないみたいに応えた。
「──知れて良かったでしょ?」
確かに。
否定できずに、少しだけバツが悪い表情で拗ねてみせる。
だけど、最後には素直に頷いて。
「……ありがと、ちーちゃん」
何も変わらない
「──ねぇ、空を飛べるって本当?」
「…あぁ、」
「………異世界ってすごいんだね」
前作とセット。翼は普段邪魔だから仕舞ってるんだよ、っていうご都合設定。
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