見上げる建物は、とても立派で。
その中からは、明るい声と光。

話には聞いていたけれど…実際に参加するのは始めて。
だから、よく分からなくて…おそるおそる、会場に顔を出す。

──そう、今日は舞踏祭。



明るい夜を待つとき



「うわぁ…」

立ち入った舞台の華やかさに思わず声を零す。
そして、辺りを見渡して…天井までも見上げてみる。
思った以上に高い天井を見上げて、なんだか妙に感心していると…声がした。

「…咲姫、」
「どうしたの…天井、見上げちゃって」

問うような…だけど無表情の支葵と莉磨。
あ、と振り向いて、見られてたんだ…と恥ずかしげに笑う。

「あはは…高いなぁー、って思って」
「まぁ、そーかもね」

軽く相槌を返してくれるのは莉磨。
支葵は黙ったままで、その考えは読み取れない。
すっと視線を落として、莉磨が咲姫に話しかける。

「咲姫、それ…似合ってる」
「え…!?そ、そう?」

突然の言葉に、驚いてしまう。
モデルの二人は、やっぱりなんでも着こなすというか…うん、似合いすぎるくらい。
上手く応えられなかった私だけど、えぇ、と頷いて返してくれる莉磨に嬉しさを隠せない。

それに今日は…私のために、って、拓麻が用意してくれた服だから。
普段言ってもらえるより、ずっと嬉しいんだと思う。
自然と笑みが零れていた。


「…あ、」

辺りに華やかな音が広がる。
見れば、手を取って踊り始めている姿。
もう始まりの曲なんだ、と気が付いて大好きな彼の姿を探す。

『ずっと一緒に居るのは無理だろうけど…最後は、迎えに行くから』

遠くに見えたその姿は、いつもよりも着飾って、また一段とかっこよかった。


「ねぇ、咲姫…」
誰も居ないなら、相手してよ。

支葵君に誘われて、うん、と返事を返そうとして気が付いた。

…ダンスなんて、私……まともに、できない。
今日のために練習はしたけど、拓麻が一緒だったし…。

どうしようか、なんて考えてる間に近付いた支葵君に手を取られていた。

「えっ!?」
「大丈夫だよ…なんとか、するから」
「え、あ…うん、」

驚いて声をあげた私に、そう呟いて踊り始める。
横で莉磨がつまらなそうに声を漏らしているけど、今の私はこの状況についていくのに必死で、その声は聞こえていなかった。


「ふぅ…」

踊り終えた咲姫が、声を零す。
どうしたの、と感情のみえない莉磨の声がした。
…だけど。
理由なんて、わからない。
凄く緊張した。
この舞台が初めてだった所為か、それとも、どこかいつもと違う様子の支葵君に驚いたのか。


いつの間にか、夜も更けて。
気が付けば最後の一曲が流れ始める頃。

「咲姫」

約束どおりに拓麻の姿が見えて、ぱっと笑顔になる。

結局、始めに支葵君と踊ってから他の人とは踊っていない。
知り合いが多いわけではないから、仕方ないのだけれど。

「楽しめた?」
「え、あ…はい、」

突然の問いかけに、曖昧に言葉を返すことしかできない。
支葵君や莉磨と話していたり。
…拓麻の姿を見つけては目で追ったり。
だから、少し複雑な気持ち。

そんなことを考えていると、笑顔の彼が思い出したように私に尋ねた。

ねぇ、そういえば。
「最初、支葵に見惚れてたでしょう?」

一瞬、意味が分からないまま瞬いて、気付くと声が零れていた。

「えっ、と…」

見惚れる…?
支葵君、に…私が?

分からなかったけれど、あの緊張がそのことなのか。
予想しか立てられない咲姫の思考を遮るように、一条が笑う。

「いいよ、別に」

優しい声が聞こえて。
それから、少し視線を細めて、続ける。

「──今から、僕しか見えないようにしてあげる」
「…一条、先輩?」

その表情が、すごくカッコいいから。

鼓動が速まる。
息が詰まって、体が強張って。
貴方から、目を逸らせない。

だけど、とても幸せな気分…───


遠くから見てるより、他の誰を見てるより。
傍で貴方を見ていられる今が嬉しいと思う。
こんな気持ちも、もっともっと幸せな想いも…きっと、貴方と居れば、知っていける。

そんな想いを抱いた、冬の夜。




メインは、言わずもがな、支葵君と莉磨と話すこと!
一条先輩が来た後、莉磨が「咲姫、取られた…」とか言ってたら可愛いと思います。

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