ぐっすり眠る、可愛い姫。
今日は、少しだけいたずらを企んでいたりして。



秋の収穫祭



「…トリックオアトリート」

日の昇りきった頃。
咲姫の頬を指でつつきながら、呟く。

今日は休日だから、まだベッドの上で布団にくるまっている咲姫。
世間はすっかりハロウィンムードで、お祭りごとが好きな拓麻が黙っているはずがなかった。

つんつん、と頬に触れる感覚に、ついに咲姫が目を開くと、嬉しそうに笑う拓麻。

「吸血鬼の、コスプレ…?」

どうしてわざわざ、と思わなくもないけれど、拓麻が楽しそうに笑うから、どうでもよくなってしまう。
うん、と頷く姿を眺めながら、こういう格好も様になって、本当にかっこいいと思う。

「トリックオアトリート!」
「………持ってない」

持っているはずがない、いつも身一つで寮に潜り込んでいるのに。知ってて言ってるんだ。
トリックを覚悟して、拗ねたように呟く。
少し膨らんだ頬を、面白そうにまたつつく拓麻。

「じゃぁトリックだね。今日一日、僕に…君を独り占めさせて?」

一日、部屋で、二人っきりでいよう。
そう言うと、咲姫の体を起こして、隣に腰かける。

「ほら、咲姫も言ってみてよ」

その笑顔が、全部彼の手のひらの上だと言っているようで。
だけど、彼が咲姫にすることは、いつだって彼女を喜ばせることで。
…だから、何の抵抗もないまま、声にする。

「トリック、オア、トリート」
「はい、お菓子」

咲姫の大好きな焼菓子を取り出して、口元に運んでやる。
あっ、と目を輝かせて美味しそうに頬張る様子を見ていると、自然と頬が緩む。

はい、水もね。
そうして至れり尽くせりな部屋に君を閉じ込めていく。

「たっぷり甘やかしてあげるから、」

ずーっと、ここにいてほしい。
そんな独占欲が、君に伝わらないように、甘い言葉で隠しているんだ。

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