「おらよ。」
「ん。」

シズちゃんの家に行くとコーヒーがでるようになった。
前は何も無しか、でてきたとしてもせいぜいシズちゃんの好みであろう甘い飲み物か普通のお茶がいいところだったのだが。

(…あまい。)

ちなみにこのコーヒーはげろ甘である。
砂糖をどれだけいれてるんだかわからないがとにかく甘い、甘すぎる。普通にごくごく飲み干している隣の甘党は味覚が死んでるんじゃないだろうか。もしくはそんなところまで鈍いか。
とりあえずコーヒー豆に謝れ。

(ぬるい。)

そしてすごくぬるい。
暖かいとも冷たいともいえない絶妙な生ぬるい温度。
正直美味しくない。
むしろなんでこんな微妙な温度でいれられるのか不思議でしょうがない。

「…ごちそうさま。」


だけど俺はそのコーヒーを決して残すことはしない。


なんせこのくそまずいコーヒーをいれるバカ、要するにシズちゃんは自宅でコーヒーを良く飲む俺を見てわざわざ俺のために砂糖を大量投入しないと飲めもしないコーヒーを買って、見よう見まねでいれているというなんともアレなバカなのだ。

この微妙な温度も最初に一言、そう、たった一言。最初にシズちゃんがいれたコーヒーを飲んで「熱い」と。俺がそういった結果なのだ。

(…なんか、愛されてるなあ。)

きっとこのコーヒーも俺が一言、甘いだとかぬるいだとか言えばもう少しまともな味になるのだろう。
それでも俺は黙ってこのコーヒーを飲み干す。

「ねえシズちゃん。」
「あ?」
「またコーヒーいれてね。」
「…ああ。」

俺好みにするのは簡単なことだ、だけどもう少しだけシズちゃんの不器用でへたくそな優しさの味がするコーヒーを味わっていたい。


ティースプーン山盛りの愛


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