臨也さんがいなくなった。


事務所には少しの家具たちが申し訳なさそうに埃をかぶっているだけで誰も居ない。
昔教えてもらったいくつかの隠れ家にも居ない。

臨也さんに教えてもらった情報収集の方法と最近入った不思議なカラーギャングを使って臨也さんの情報を集める。

臨也さん。酷い扱いを受けていた私を人間としてみてくれて、愛してくれて、私を虐げた奴らに復讐するために情報という刃の扱い方を教えてくれた人。
臨也さんは私を人間というくくりでしか愛していなかったけど、私はそんな臨也さんを愛していた。私に幸せをあたえてくれた臨也さんに幸せになってもらいたかった。
どこに行ったんだろう。
無事だろうか。
無事でいてほしい。
無事じゃなかったら…。嫌だ、臨也さんが居なくなったらなんて、考えられない。
臨也さんにねだって一本だけ貰ったお守り代わりのナイフを握り締める。
嫌だ、嫌だけどそのときは。そのとき私は、これを使って。


折原臨也が失踪した。
折原臨也がやばい事やって追われてる。
折原臨也が警察に捕まった。
折原臨也がヤクザに埋められた。
折原臨也が高飛びした。
折原臨也が死んだ。


尾ひれが付いてるんだか付いてないんだか解らないような噂たちをとにかくかき集める。
臨也さん、臨也さん、臨也さん。どこにいるんですか何してるんですか。
いつまでたっても情報は足りずいつまでも臨也さんは掴めない。
ネット上でも現実の人々の間でもどこからともなく発信され、まことしやかに囁かれる臨也さんの死。
誰が。そんなこと。
やはり臨也さんは、もう。
考えるだけで胸が苦しい。


臨也さんの目撃情報はある日を境にぱたりとなくなっていた。その日、何があったんだろう。それを知るために昼も夜も携帯とパソコンをフル稼働して、情報を集め続ける私に一つの情報が飛び込んできた。

臨也さんの目撃情報がなくなる直前の日、臨也さんは、平和島静雄と会っていた。

平和島静雄。
臨也さんが唯一嫌っていた、ばけもの。

その情報が流れていた所では平和島静雄が臨也さんをとうとう仕留めたのではないかと、そんな話題で持ちきりだった。

平和島静雄。彼が、彼が?
でも、おかしい。
私は知っていた。臨也さんがシズちゃんと呼んで唯一の特別としてあつかう彼のことを本当は愛していたという事を。
私は知っていた。平和島静雄は臨也さんが好きだということを。
なぜなら私は臨也さんを愛している。特に幸せそうにしている臨也さんを愛している。だから私はいつも臨也さんの幸せを探っていて、ある時はさり気なく臨也さんを観察して、ある時は彼らのケンカを眺めて。そうして臨也さんは彼を好きだということ、そして平和島静雄もまた臨也さんが好きなのだということに気がついた。

おかしい。
愛しているものに手を出すだなんていくら化け物と呼ばれていても、そんなこと。
おかしい、ありえない。まさか。そんな。

ありえないと思った。
信じたくないと思った。

だけどそんな私の望みを裏切る情報が私の元に飛び込んでくる。
掲示板の書き込みにそれはあった。

「ちょっと聞いてくれ、今俺、平和島が折原の死体を運んでいるところをみたんだ…折原の首が変な方向に曲がっててさ、平和島は平和島でなんかものすごい怖い顔してるしさ、俺見てることに気付かれたら殺されると思って物影でずっと隠れてた。まじこわかった。平和島とうとう折原を殺ったのかな。」

まじかよ、嘘だろ?、釣りだろう。
巨大掲示板の中でそんなレスばかりで埋もれていた古いスレッド。
信じたくなかった。
だけどその情報は私が今まで集めてきた情報、その中でも信憑性が高い物全てに矛盾することなく一致していた。
私の情報は臨也さんの失踪に関してはかなりの量がある。でっち上げでここまで一致することはありえない。でも。

うそだ。
うそだうそだうそだうそだ。
だって、だって、それは。

臨也さんは、愛する人に、殺されたということか?
臨也さんが彼のことを語るとき、油断して憎しみの表情を作るのを忘れたときに見せる幸せそうな顔が浮かぶ。
あの幸せそうな笑顔を向けられて、その笑顔を奪ったということか?平和島静雄は。あの、化け物は。










気がついたら臨也さんのナイフを持って池袋をふらふらと彷徨っていた。


平和島静雄。
許さない。
許さない。
どこだ。

彼は人気のない公園で黒バイクと話していた。彼は微笑んでいた。
臨也さんの命を奪った彼は、微笑んでいた。



沸騰した頭で黒バイクが去るのを待てたことが奇跡だったと思う。


1人になったところを見計らって隠れていた場所から出る。
ナイフを構えて、走って、走って、走って――…





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