人の居ない公園で、見慣れたバーテン服の後ろ姿を見つけ肩を叩く。
がばっ、とでも効果音がつきそうな勢いで振り向いた静雄の目は少しだけ輝いていて。

「…なんだ、セルティか…。」

あからさまに落胆した表情。虚ろになる目。前ならば私だとわかってこんな表情をすることは絶対になかった。

『静雄、元気か?』
「ああ、おう。まあ健康だな。」

歯切れが悪い。会話しているのにこちらを見ていない。時折PDAをちらりと見て適当に返事をしながら公園中に視線を巡らせている。
その様子は誰かを探しているようで、私はなんだか悲しくなった。

『…そうか、元気ならいいんだ。食事はとってるか?よく眠れてるか?』
「母親かよ…。」

そういいながらも静雄は少しだけ笑う。
よかった、相変わらず目は空虚だが、それでも静雄はしっかり笑えている。だから大丈夫だ、きっと。

『私は私なりに静雄が心配なんだ。』
「そうかよ、わりーな。心配かけて。」
『いいんだ、私がかってにしているだけだからな。落ち込んでると思ったがそれでも思ったより大丈夫そうで安心した。』

何で落ち込んでいたかには触れない。
余計な事に触れてまた沈んでしまったら困る。


静雄が臨也を殺して一ヶ月ほどたっていた。
様々な事情から臨也の死は公になることもなく、臨也はごく近しく、臨也の死を悪用しないであろう人間以外誰にも知られずひっそりと葬られた。

街は相変わらず平穏で。
私は相変わらず運び屋の仕事を、新羅は闇医者をしていて。
臨也に関する噂もだいぶ下火になっていた。

静雄は変わった。
目が虚ろになった。
あまり笑わなくなった。
常に誰かを探すようにきょろきょろとするようになった。
黒い短髪やファーの付いたコートを目で追うようになった。

そんな静雄が今までどおりに見えるときがある。誰かに後ろから声を掛けられたときだ。
その瞬間だけ瞳は生き返り、口の端だけで笑って、振り返って。

そして、声をかけてきた人間が望んでいた誰か…臨也でないことに絶望する。
あの瞬間の静雄が一番痛々しい。

そんな絶望をうっかり背後から肩を叩いた所為であたえてしまったことを後悔しつつも、少しでも静雄の笑顔を見れたことで私はちょっとだけ安心していた。

(多少は吹っ切れたのだろうか。)

最初はひどかった。ずっと空虚な目でどこかを見つめながら一日中部屋に閉じこもっていたと様子を見に行った新羅から聞いた。正直あのままだったら食事と睡眠を忘れ、そのまま餓死していてもおかしくなかったと思う。街で静雄を見かけるようになったのもここ2週間くらいでようやくだ。
静雄は大切な友人だ、正直ものすごく心配している。だけどデリケートな話題なのであまりずかずかと踏み入る訳にもいかない。だから私は結局こうやって静雄と話すくらいしかすることはできない。

(ああ、もどかしいなあ。)

まったく気にするなというのは無理な話だろう。たとえば私が何かの拍子に新羅を殺してしまったら…考えたくも無い。静雄はそういう状況なのだ。
それでも私は静雄に元気でいてほしい。静雄はデュラハンである私の数少ない親友なのだから。

だから、はやく元気になってくれ。
いつもの静雄に早く会えるよう、私は心の底から祈る。


そのとき私は物思いにふけりすぎていた。
だから気がつかなかった。
物陰からこちらを見つめる2つの目に。

このとき、もし私が気がついていれば。何か、変わったのだろうか。

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