深夜、眠る臨也を起こさないようにベッドに座って煙草を取り出しくわえ、火をつける。
緩やかに立ち上る紫煙。
体に悪いなんてのはこのご時世だ、いくら俺でも知っている。
それでも俺はやめられない。
中毒、なのかもしれないがそもそもやめようとも思えないから中毒性があろうとなかろうと結局やめられないのだろう。
大して旨くもない煙を吸って、吐いて。
繰り返される緩慢な自殺行為。
…自殺、行為。
そう、俺は自らの手で自らに毒を盛り、自分を緩やかに殺しているのだ。
眠る臨也が小さく呻く。起こしたかとそちらを見るが単に体勢が気にいらなかっただけなのかもぞもぞと寝相を変えると再び安らかに寝息をたてはじめる。
その無防備な姿になんとなく高校時代、よく屋上で寝ていたこいつを重ねたがそれが上手く重なることはなかった。
…もう6、7年前の話、今は俺も臨也も少なくとも体は大人になったのだ。似ているが大分大人びたそれが重なるはずがない。
息を吸って、吐いて。
煙が肺を満たして、汚す。
これからもまた、今の臨也のこの姿に現在の臨也が重ならなくなっていくのだ。
変わっていく。世間はそれを成長と呼び老いと呼んでいる。
だから人間である臨也は成長し、老いて。きっと生き汚いこいつは殺されることもなく普通に死んでいくのだろう。当たり前だ、どれだけ精神が歪んでいても肉体はただの人間なのだから。
自嘲気味に息を零す。
俺は、どうなんだろう。
一般的な人間にカテゴライズされるには余りにも無理のある体。
この体はただの人と同じように、年をとることができるのだろうか。衰え、弱り、死ねるのだろうか。
短くなった煙草を灰皿につっこみ、もう一本新たにとりだし火をつける。
吸って、吐いて、吸って、吐いて。
生きるための呼吸と同じ動きでゆっくりと自殺を繰り返す。
こうしていれば自らの無駄な頑丈さと自ら吸い込む毒が相殺して、自分をただの人間にしてくれるのではないか。
ただの人間であるこいつと同じように生きて、同じように老いて、そして同じように。
そんな妄想を抱えながら俺はもう一度深く息を吸い込んで、肺を黒く汚した。
緩慢に続く、
(化け物は人になる夢を見る)
〈End〉