※イニシャルGの話
俺は今大変に珍しいものを見ている。
「ああ、シズちゃんやっときたの!?遅いよ!ホント待ってたんだよ!?」
「あ、ああ…」
早く、早く、と涙目で俺の腕を引っ張る臨也だ。ちなみに俺は携帯で呼び出されてから出来得る限り急いで来てやったから俺に非は無い。
「あれ、あの、デスクの下辺り!!」
臨也から殺虫剤のスプレーをわたされる。…ゴミ蟲に殺虫剤を渡されるってのもなかなかシュールな…
「はやくしてよ!!」
はいはい。
俺は臨也の指差しているデスクに近寄り下を覗き込む。
奴はいた。
人知れず家屋に忍び込みこっそりと人のおこぼれを食料に巣食っていく黒いあれ。通称イニシャルG。
すばやく手元の薬剤を構え、噴射。不快な黒い虫は暫くのたうった後動かなくなった。
「おい、やったぞ。」
「ホント!?ありがとう、今ならシズちゃんにだって素直にありったけの感謝を述べられるよ!」
「一言どころか存在が余計だ。」
「ひどい!」
ぶーぶーと喚く臨也を放置して奴の死体をティッシュでくるみ、トイレに流しにいく。
臨也はこいつが大の苦手だ。どのくらい苦手かって天敵であるはずの俺に電話で縋るくらい苦手らしい。
最初は驚いた。
いきなり電話で「シズちゃん助けて早くきて!俺死んじゃうマジ死んじゃう助けて!!」ときた。驚かない方がどうかしてる。
あわてて駆けつけてみれば「ゴキブリ退治して!」と、きたわけだ。
いろんなものを覚悟して来た俺はひどく脱力して(怪我をさせない程度の)全力でやつをぶん殴った。あの時は臨也の方も大分錯乱していたようで正気にもどったあと「よりによってシズちゃんに縋るなんて…!」と死にそうな顔をしていた。ざまあみろ。
そしてそのとき以来変な方向にひらきなおったのか、
「おい臨也、おわったぞ。」
「ああ、うん、どうも…。」
こいつはアレが出ると俺に連絡するようになった。
うざったいと思いつつも頼られる事がなんとなく嬉しい、と感じてしまっている俺は奴の電話でまたたかがこれだけのために呼び出されてしまうのだろう。
厄介な話だ。
人間1つや2つ弱点はあるものです
かわいいもんでしょ?
―――――
絵茶でGの話題で盛り上がったので