助けて
「なあ臨也、てめえの世界は辛いか?」
「…何、急に。」
赤い目が見開かれる。こいつ自身の腐りきった中身とは違い、美しい、見る者を虜にする目だ。
「嫌われ者の世界はどうかなと思ってよ。」
「シズちゃんは随分と口が達者になったんだね。」
美しい赤が嫌な形に醜く歪む。
こいつは嫌われた。
池袋の人間、新宿の人間、絡んでたヤクザ、こいつの信者、来良のガキども、挙げ句の果てには門田やセルティ、新羅からも。
誰も臨也を、好意を持った目で見ない。それは俺も(主にこいつのせいで)経験したことのある、嫌われ者の世界だ。
「俺は俺が望むように人間を愛したらこうなったんだ、愛しい人間がもたらした結果を愛しこそすれ辛いなんて…」
「なあ、」
べらべらと言葉を垂れ流すやつを遮る。
「辛いなら俺に、助けて、って言えよ。」
やつの体がぴくりと揺れる。
「助けて?どうして俺がそんなこと…」
「寂しがりやの臨也くんには今のここは辛いんじゃないかと思ってよ?」
限界を超えて歪められた赤い瞳に負の感情が揺らめいた。
泣けよ、喚けよ、情けなく俺に縋れよ。そして、その綺麗な瞳を歪めて「助けて」って言えよ。寂しいんだろ?好かれていたお前を唯一嫌っていた俺が嫌われたお前に唯一好意を与えてやる存在になってやるから。だから。
言えよ。
「シ、ズちゃ…」
綺麗な瞳からあふれた汚い奴が作った綺麗な雫と共に、やつは俺が望んで止まなかった言葉を零した。
―――――
臨也に「助けて」っていって欲しかった。
文中じゃ結局言ってないけど。
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