Plesent Story | ナノ



「ナーオーリン♪」語尾に音符がつくほどの上機嫌でアスカに呼ばれたナオトは顔をひきつらせた。
アスカは常日頃、笑顔を営業させている。少なくとも自分の前で笑顔じゃないときなんて片手で数えれるくらいだ。へたしなら洗練されたポーカーフェイス以上に彼女の変化を読みとりにくい。
だが、アスカの母親というなんともまあおかしな立場なため、ナオトはある程度の見分けを感覚的にできる。特に今回のような悪巧みしてるときの笑顔を。

「な、なんだ?」
「私ね〜、お正月にのんびりしてるの勿体無いと思うんだ〜」
「お正月だからこそ休息だと思うんだが」
「それでね〜、私いいこと思いついたんだ〜」

ナオトの突っ込みは無駄に終わった。完全無視、自分の話のみ、なんという行為をしても許されるのはアスカの人柄故だろう。それよりもナオトにとって、無視されたどうのこうのよりもアスカが思いついた"いいこと"についてのほうが重要だ。「いい、こと?」嫌な予感満載。むしろこれで自分が被害に遭わないようなことではなかったら明日、槍どころか隕石が大量に降ってくるだろう。ナオトの心情を知らないで「うん〜。いいこと〜」とにっこにこ笑顔で返答が返ってくる。「なにを思いついたんだ?」その言葉にアスカは待ってました!と言わんばかりに顔を輝かせる。

「ナオリンってさ〜、男の子に間違われるようだけど女の子の格好もちゃ〜んと似合うと思うのね〜」

意気揚々と話すアスカ。次の言葉は容易に想像がつく。なのでナオトは先に先手を打った。「振袖なら着ないぞ」「うん、振袖は。でしょ〜」しかしその切り替えしは間髪いれずに返ってきた。どうやらそのようなことを言われることを相手にとっては既に予測済みのようだ。

「だいたいさ〜、私が振袖というありきたりなものを着せるわけないじゃん〜」
「じゃあなんだ!?着せるというった時点で何か着せられるのは決定なんだよな!?」
「トワお手製の」「それ以上言うな!」

トワの名前が出た時点でそれを着るのが嫌になった。あの蒼い髪をしたオタクの代名詞を誇る少女が作った服なんて死んでも着たくない。だが、アスカに言うなと言ってとまることなんてあるだろうか?……あるはずがない。そんなことで止まるようならば彼女の従者であるキラはあんなに苦労なんてするはずがない。

「トワお手製のお正月コスプレVer.兎をナオリンに着てもらおうと思いま〜す」
「いーやーだー!!!」

どこにしまっていたんだ!と突っ込みをいれたくなるような大きさの服をアスカは取り出した。それは白兎をイメージさせるようなもので、お正月ということもあり和風仕様。短い丈の白い着物にところどころ黒いレースでアクセントがつけられており、和風ロリというような感じだ。しかもゴスロリ風味。服を見るだけなら可愛いと思われるが、そっちの趣味がない限り率先して着たくはない。だが、ナオトは今その服を着るか着ないかの局面に立たされている。必死に抵抗するが、アスカが簡単にひくわけがない。

「え〜、着ようよ〜」
「ぜってー嫌!地球が滅亡する前日に着てやる!」
「本当〜?じゃ〜、ラウちゃんに連絡しなきゃな〜」
「待て待て待て!本当に地球を滅亡させる計画立て始めるな!」
「だ〜って、地球が滅亡する前日に着るんでしょ〜」
「比喩だ!」

「ちぇ〜」と不服そうな表情を浮かべるアスカ。その様子にナオトは「うっかりした比喩も言えない……」と呟く。傍から見れば馬鹿な言い合いをしてるなー、とか思われるが、彼女の目は本気だった。本気でナオトに服を着せるために地球を滅亡させる気だった。「ど〜してもダメ?」と上目遣いで可愛らしく言うアスカ、ナオトは言葉をつまらせるが「ダメだ」と断る。目に見えるようにしゅんっとするアスカ。

「む〜、白兎ってアルビノだから私とお揃いなのに〜」
「いや、明らかに言い分がおかしいよな!」
「ナオリンのけち〜」

落ち込んだ表情でけちと文句を言うアスカ。年齢から見ればアスカの方が年上のはずなのにこの様子を見たらどうあってもナオトの方が年上に見える。彼女の心情も同じだろう。「お揃い嫌なのか〜……」と呟く声は今にも泣きそうだった。それを見て無視できるほどナオトは非道ではない。彼女の良心が痛み、とうとう「少しだけだぞ」と言ってしまった。「本当〜?」と疑うような目で見るが「ただし、写真禁止な」と念を押す。

「みゃはは〜!それではお着替えタイムいってみよ〜!」
「ちょ、アスカあれ嘘泣き!?」
「私は一度も泣いてないよ〜」
「うわー!了承するんじゃなかった!!」

ナオトが後悔するが、もう遅い。アスカのスイッチが入ってしまっている。「着付けはできる〜?」と爛々と目を輝かせる彼女を見て、やっぱりやめる。なんて言える者はそうとう心が冷たい者しかいないと思われる。

「兎耳のヘアゴムもあるから髪結ぼうね〜」
「は、それは嫌だぁぁぁ!!」

天まで届くようなナオトの叫びは虚しく終わった。


兎の衣装遊戯

(わ〜!ナオリンかっわい〜!写真写真)
(ちょ、撮らないって約束!!)
(え〜、私はその約束承諾した覚えもないし〜、指きりしてないものは約束といいませ〜ん)
(な、アスカ!?)
(ま〜、写真がダメでも世の中には動画というものが存在するからね〜)
(屁理屈ー!!)





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