風に揺れる大きな笹

沢山の願いが書かれてる短冊

夜空にかかる天の川



離れ離れにされた夫婦、織り姫と彦星が会うことを許される大切な時間


そして、村人に呪い子と呼ばれ、忌み嫌われていた僕が村に歓迎される唯一の日



「悪魔の子と天使の子が一緒に居ても許される日」



ドッカァン



大きな爆発音を聞き流しながら頭上に広がる天の川を見上げた。



「今更、意味ない」


今日が七夕だろうが、あの村はもう滅んでいるし、唯一友達だったリルも敵となっている。




「……い……おい!」



いきなり耳元で怒鳴られて、眉間に皺を寄せながら神田ユウを見た。



「何」


「呆けっとしてんじゃねぇ。任務終わったんだから帰るぞ」


「ん」



一文字で返事をするが、僕の視線は遥か上にある天の川にいっていた。



「まさか、織姫と彦星が会えるといいとか考えてるんじゃねぇよな?」


「僕、馬鹿が七夕を覚えてる事、吃驚」



いつも通りの調子で言い返すが、やっぱり僕の視線は天の川へいく。




「……思うよ。二人が会えてるといいな、って。一年に一度許されるということがどれだけ嬉しいか、知ってる?」


たった一回、だけどそれがどれだけ救われるか……


普段は悪魔の子として忌み嫌われるけど、七夕だけは普通の子として接してもらえた。


それがどれだけ救われたか……



「そんなことされたことない神田ユウにはわかんないよ」



吐き捨てるように言って、天の川から目をはずした。



「もういいのか?」


「別に、今更七夕だって意味ないし」



むしろ過去を思い出して嫌になる。



「…帰んないの?」


「もう少し見てけばいいだろ」


「は?」



予想外の言葉に素っ頓狂な声が出た。





「時間あんだろ」


「そういう問題、違う」


「そんなに食い入るほど見てんなら気が済むだけ見てけ」



どうやら天の川を見るのを決定したらしく、神田ユウはその場に腰を下ろした。



「〜〜〜っ!」



何ともいえない出来事に僕は怒りが沸くが、無意味だと悟ったので神田ユウの横に腰を下ろし、空を見上げた。


暗い闇に浮かぶ一つの橋


禁じられた二人を一日だけ許すためにかかった橋



織姫と彦星


悪魔と天使


僕とリル



色々連想しては消え、過去を思い出しては消え…思わず泣きたくなった。




「……」


うっすら出てきた涙をコートの袖で擦っていたら、上からパサリと何かが被さった。



「何」


「それで顔隠しとけ」


「余計」


「俺の勝手だ」




上から被さったのは神田ユウの団服だった。



どうやら、僕が涙を浮かべてるのを見ての行動っぽい。



「泣きたきゃ泣け」


「嫌」


「どうせ顔見えねぇんだからよ」




あぁ、それでいつもは団服を乱雑に使うと怒るくせに僕に貸してくれたのか。



「本当、余計」


「うるせー」



それでも優しく頭に手を置いてくるもんだからつい涙が零れた。



「っ……」




久しぶりに天の川を見て、楽しかった思い出が蘇って少し辛くなった。



きっと、今この場に居るのが僕独りだったら耐え切れなかったと思う。



「あり、がと……」


「……」



小さい声でお礼を言ったが、返事がなく聞こえたかは知らないが、言うだけ言ったのでよしとする。




村が滅んだ日以来、七夕なんてどうでもいい行事だと思ったが、やっぱり僕にとっては大切な大切な日だと痛感した。




大切な七夕


(あ、今日七夕だー)
(リル、七夕とか喜ぶのぉ?)
(おや?クリスマスとかは冷めてたのに以外ですネ)
(もしかして織姫と彦星をロマンチックに思ってるやつぅ?)
(まっさかー、織姫と彦星なんてどーでもいいよぉ)
(じゃあ何でそんなに嬉しそうなんだよ?)
(ひ・み・つ♪)
(ちぇっ)
((七夕かぁ、きっと今のあたし、花火ちゃんと同じこと考えてるんだろうなぁ))



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