ふと思うときがある、もしこれの幸せの日々が長い夢の話なんじゃないかって……。


「きょーやん」

「な、何?」


最近、ボクのきょーやんの様子がおかしい。おかしいと言うよりもボクに何か隠している。
目が合えば逸らされたり、話しかけたら吃ったり、ボクを避けたり……


「きょーやん、何かあったの?」

「な、何かって?」

「……ううん、やっぱなんでもない」


笑って言うときょーやんはそっか、と言って逃げるように去っていく。そんな様子を見て急になんとも言えない不安が押し寄せてきた。
前世では嫌われてたし、避けられることも慣れていた。だけど転生してからはそんなことなくて安心してたから、突然避けられると昔を錯覚させた。


「……っ」


避けられる、遠くからこっちを見て何か話す。嫌われならばもうすぐ呼び出しがありリンチか何かをされる。昔当たり前だった出来事だ。それを今、大切だと思ってた人にいきなり嫌われたりしてそんなことされたりなんかしたらボク……


「耐え切れるかなぁ……」


そんな不安を抱えて放課後


「芹浪、ちょっといいかな?」


きた、不安げに尋ねるきょーやんを見て思った。


「何かな?」

「今日ヒマかな?って……」

「なんで?」


普通にと心掛けてたが棘を刺す喋り方なのが自分でも分かった。


「ちょっと用事が……」

「何の用か言えないの?」

「それは……」


下を俯いたきょーやんを見て、ボクはガタッと席を立った。


「帰る」

「待ってよ!」

「ほっといて!」


掴まれた腕を振りほどいて声を荒げた。


「芹浪っ」

「っ!」


名前を呼ぶ声に逃げるように教室を出た。


「私何かした!?」


走って追いかけてきたきょーやんを見て、あんな奴らと同じことするわけないのに逃げようとする自分になんともいえない激しい自己嫌悪が襲った。


「どうしたんですかー?」

「守威ちゃん……」

「ん?なんで芹浪がいるんですかー?」

「通ってる学校に居たらおかしいの?」

「いえー、おかしくはないですけど……」


何か言いたげの顔をしてきょーやんを見ると、納得した表情を浮かべた。


「だーから言ったじゃないですかぁ。サプライズはいいけど変に避けると芹浪を傷つけますよって」

「ごめんなさい……」


きょーやんの大きな瞳からポロポロと涙が零れだした。


「傷つけてごめんなさい……私……」

「わ、泣かないでよ!ボクも急に怒鳴ってごめんって!」

「私何かしたって十分してるよね……。散々芹浪を避けておいて嫌われて当然なことしてたのに……」

「嫌ってないんらよ!むしろボクの方が嫌われたと思って……」

「私が芹浪のこと嫌うわけないよ!!」


ボクの言葉に噛み付くようにきょーやんは叫んだ。


「嫌ってない?」

「嫌わないもん!避けてたのには理由があって……」

「理由?」

「えっと……」


何?と聞くときょーやんを目を逸らして言葉を濁らした。


「もう言ったらどうですかー?これ以上やってると笑えてきてしかたがないんですけどー」

「倉知先生!」


必死に笑いを堪えて言う守威ちゃんにきょーやんは顔を赤くして怒った。


「だから…そのね……」

「?」

「今日、芹浪の誕生日だから驚かせようと思って……」

「誕生日……」


本日7月21日で……


「ワォ」

「忘れてたの?」

「すっかり」

「だろうと思いましたよー。鋭い芹浪が自分の誕生日覚えてたらそんな勘違いするわけないじゃないですかー」


守威ちゃんに笑われてボクは俯いた。
いや、自分の誕生日を忘れるとかどんな古典的なドジッ子だよ。いや、ボクはドジッ子ではないのだけどね。


「きょーやんゴメン……」

「私こそごめんね……」


謝罪のしあいをして、段々おかしくなってきてボク達は笑い出した。


「芹浪誕生日おめでとう!」


ニッコリと向日葵のような笑みを浮かべて祝いの言葉を述べるきょーやんを見てボクも笑ってお礼を言った。


「ありがとう!」



不安と安心

(じゃあ早速いこっ!)
(別にいいんらけど…どこに行くの?)
(ふふ、それはついてからのお楽しみに♪)
(うーっ)
(あまり遅くなっちゃうといーやん達に怒られちゃうからいそごっ!折角じゃんけんで勝ったのに意味なくなっちゃう!)
(じゃんけん?)
(誰が芹浪の誕生日に数時間だけ二人きりで過ごすかじゃんけんで決めたんですよー)
(ボクの誕生日なのに本人の意向無視なんら……)



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