崩壊6/玲流
ルキの家に行くと、ルキはソファーの上で膝を抱えて突っ伏していた。
近くに寄るとコードが伸びて耳にイヤホンが付いていて、そこから漏れる音は言わずもがな。
目の前のテーブルにはノートパソコンと煙草が山積みになった灰皿、モンスターエナジーの缶が何本か置いてあった。
ろくに飯食わねーのに、そんな物ばっか飲んでたら死ぬんじゃねーの。
微動だにしないルキの隣に腰掛ける。
こう言う時のルキは話し掛けても反応が無い。
ルキぐ見ていたっぽい、テーブルにある雑誌を手に取る。
あの人が載ってる雑誌をパラパラと捲って。
最後に会った日の事を思い返す。
ルキの荷物を引き上げた後はその場で連絡先を削除しろって言われたから、もう連絡を取る事は無いし、引っ越し先も聞いていない。
でも、やっぱり奇跡が起きるんじゃないのかとか、そんな非現実的な事を考えてしまう。
あの人はルキにバンドを続ける事を望んだ。
両方手に入れる方法は無かったんだろうか。
ルキんちに来てからどのぐらい経ったのか。
腹減ったなーって思いながら携帯を弄ってると不意に隣のルキが顔を上げた。
機械を操作してイヤホンを耳から抜いたら、ソファーから降りようとして俺に気付いたらしくこっちを向いた。
顔色が悪い。
ここ最近は、だけど。
「……れいちゃん来てたの」
「おう。腹減ったし飯食いに行かねぇ?」
「…お腹空いてないから1人で行ってくれば」
「いやいや、ルキも食わなきゃダメだろ。お前随分痩せたし、その内ぶっ倒れるんじゃねーの」
「うるさい。別にいいよ」
「よくねーって。お前自分の腕見てみろよ、」
「いいっつってんじゃん。何、いちいち彼氏面すんなよ」
最近のルキは飯を食いたがらないんだけど、痩せたっつーか窶れて来たし心配になるだろ。
ルキの腕を取ると骨ばった腕、手。
あんまり煩く言うと、ルキは視線を逸らして鬱陶しそうに言いながら腕を引こうとするけど離さない。
ソファーの上、ルキの腕を引いて向き合う。
「いーや、彼氏面すっから。心配してんだよ。食べなきゃ頭働かねーだろ。歌詞も没食らってんのに」
「………」
「ま、それはまだ時間あるからいいけどさ、このままだと本当に倒れるぞお前」
「………」
「あ、ついでに言っとくと、京さんが好きなのは仕方ねーけど、他の奴と浮気したら怒るからな」
「……れいちゃん怒んの」
「おうよ。めちゃくちゃ怒る。男でも女でも浮気すんなよ」
「彼氏面…」
「いや、付き合ってるからね。お前男もイケるってバレてんだから、他の奴にアプローチされんなよ」
「何それ」
「真剣だからな。ちゃんと聞いて下さーい」
「はは、うざ」
ルキの頬を片手で摘まむと、笑って手を払われた。
死にそうな顔をしているより、ルキは笑ってくれたら嬉しい。
これから先、奇跡が起きるかもしんないじゃん。
俺が相手だったら。
その時、お前を離してやれるだろ。
「…れいちゃん」
「………」
不意にルキが口元だけで笑って、俺の方へと身体を寄せて来た。
そのまま、首に腕が回る。
「シよ?」
「俺腹減ってんだけど」
「俺は減ってない」
「…じゃ、したら飯食いに行く?」
「酷くしてくれるなら」
「超絶優しく抱いてやるよ」
「れいたって意地悪だよね」
俺があの人の代わりになる訳ねーからな。
セックスの最中、いつも泣くルキを抱きながら。
代わりなんかいらなかった。
あの時に戻れたらって何度も思う。
終
20210326
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