その嘘と表情と/京流



朝会ったるきが、今日はエイプリルフールだから嘘吐かなきゃですよねー、とか。
アホ丸出しの間延びした声で言うとったんを思い出す。

嘘吐かなアカン、て。

そんなん決まってへんやろ。

毎年毎年、おめでたい頭は僕を騙そうと嘘吐きよる。

何でるきはあんなにイベント事が好きなんやろ。


…と言うか、いつからるきは僕にイベント事を強請る様になったんやろ。


昔は何かを僕に発言するとか、怖々って感じでなかなかせんかったのに。
今はアホな事に僕を巻き込むまでになった。


慣れって不思議やな。


まぁ、一緒に暮らしとっていつまでも僕にビクつかれたら腹立つしえぇんやけど。


そんな事を思いながら、仕事から帰って何もする気になれんくて。
帰って来た時の格好のまま、ソファの上で見てへんテレビを垂れ流しにしとる中。
時計見たら4月1日はもう終わる頃やった。


何や、つまらん。
いつもるきが僕に嘘吐いてきとるから、今回は僕が吐いたろ思ったのに。


シャワーでも浴びよかなって思った時、玄関から鍵が開いて。
るきが帰って来たんやなってわかった。

何や、タイミングえぇ時に帰って来たやないの。


「────あ、京さん帰ってたんですか。どうしたんですか?上着も脱がないで。あ、明日何時に出ます?今日鮭買ったんで、明日の朝ご飯に、」
「るき」
「え?」


リビングに入って来るなり、いつもの様に喋り出して来て。
ガサガサとビニール袋を探る音がして、キッチンでるきが買い物したモンを出しとるみたい。


凄く真面目な声で言うたら、るきの動きがピタッと止まった。


「ちょぉ、こっち来い」
「…はい」


いつもの僕の声違うってるきもわかったんか知らん、静かに返事しながらソファに座る僕の元へやって来た。


るきの方をチラッと見て、真剣な顔を作って溜め息を吐く。
るきはいつになく緊張した面持ちで、僕からの言葉を待っとる感じやった。


「るき」
「はい」
「もうな、潮時やと思うねん」
「え、」
「僕らの関係。何やもう、お互い少し入り込み過ぎやと思わん?」
「それっ、て…どう言う…」
「どうもこうも、もう終わりにしよや。出てって、この家から」
「─────…」


アカン。
言うとって笑いそうになる。

嘘吐くんも結構大変なんやな。


るきの方を見ると、目を見開いて固まっとる状態で。


顔面蒼白、その言葉がピッタリな程、るきの顔から血の気が引いてった。


何か言えやアホ。


「る、」
「────ッ…」


るきの名前を呼ぼうとしたら、固まっとったるきの目が一気に充血して涙が溜まって来とんがわかる。


あぁ、こういう事言うと、コイツはこういう風に泣くんや。
って冷静な頭で思った。


昔みたいに、取り乱さんだけ少し大人んなったんかな。


「…別に、住むトコ探すまで此処におってもえぇし。長くおられても困るけど」
「…京さん」
「あー…でもるきが買ったモンとかようけあるしな、」
「京さん…!」
「…なん」
「俺、何かしましたか…」
「別に?やから言うたやん。男同士やし、潮時やろ、って」
「……ッ」


るきの不細工な顔が、物分かりがえぇ大人を演じようとして、無理で。

葛藤、混乱。

色んな感情が混じっとる表情。


ある意味、僕らの関係が深いモンになっとって。
がむしゃらにるきが僕を追い掛けて来とった時とはちゃう。

るきが、僕の言葉を受け止めて僕の事を考えてヒステリックには叫ばへん。

叫べへん。


そんな物分かりえぇ方ちゃう癖に。
変に大人ぶって、似合わへんわ。


「あー…ベッドも一緒やったな。僕もう帰らへんから…そやな、1ヶ月で荷物全部持って出てって」


自分自身、笑うわへんのを誉めてやりたい程の冷たい顔でるきを見て言葉を発すると。

るきは立ってられへんかったんか僕の足元の床にヘタリ込んだ。


「おい、聞いとんか」
「…嫌です」
「は?」
「ずっと京さんの傍にいたいです」
「…そう言うの、もう聞き飽きたわ」


鼻で笑うと、るきの目に絶望の色がさした。


言葉で言わんでも、表情でめっちゃわかりやすい。


そう言う所が、えぇ。


昔みたいに試すとかそんなんや無くて。

るきのそう言う表情が、僕は好き。


笑みの形に歪む口元を誤魔化す様に、手で隠した。


張り詰めた空気ん中、僕が溜め息を吐くとるきはビクッと肩を揺らした。


あー。

もうえぇか。
何かこう言う空気なんも飽きて来た。

久々に、るきのこう言う表情も見えたし。


「…るき、今日は何月何日?」
「ッぇ…?」
「何月何日」
「……4月、1に、ち…、あ…っ!」
「やっと気付いたんか、アホ」


種明かししたったら、るきは放心して固まったまま。


「…嘘ですか」
「うん」
「嘘吐いたんですか」
「うん」
「………」
「………」


淡々とそう告げると、るきは泣いとった顔から表情が変わる。


一瞬にして安心した様な表情になった後、膝立ちでソファに座っとる僕んトコにるきが来て。


「馬鹿!京さんの馬鹿!」
「うわ、何すんねんお前!誰が馬鹿やアホ!」
「京さんですよ!もう…!」
「っさいわ!叩くな糞ガキ!!」


るきがいきなり叫んだかと思うと、僕の方に手を挙げた。
何やろ、ガキが駄々捏ねて来るみたいな、そんな鬱陶しい叩き方。

えらい暴挙に出たるきに眉を寄せながらるきの両手首を掴んで止める。


両手を拘束されたるきは、俯いて。
その表情は見られへんかった。


「……かった」
「あ?」
「よかった…もう、俺、捨てられんのかっ、て…!」
「アホやな。お前が朝にエイプリルフールやからー、とか言うとったやん」
「だっ、て、そんなのっ、京さんが嘘吐くなんて思わなかっ…!」


あーもう。

また泣きそうやでコイツ。


えぇよ。
そう言うトコ、かわえぇとか思う僕も僕やから。


「嘘でよかった…ッ」
「はいはい、よかったなーるきちゃん。好きやでー?」
「…それも嘘ですか」
「さぁな」


生憎、時計を見たらもう0時は過ぎとって。
エイプリルフールはタイムオーバー。


るきには教えたらんけどな。


あぁ、でも。
『好き』って言う簡単な言葉で片付けられへんコイツの存在。


やから、『好き』って言うのは嘘。


形容し難い、るきに対する感情。

「京さん…っ」
「はいはい」


思い切りるきが抱き付いて来た。

…おい、僕の服で鼻水拭くなや汚い。


追い出したりせぇへんよ。
それやったら最初っから一緒に住もうや言わへんわ。




20110402



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