嘘の中の嘘と本音/敏心




「あ、もう日付変わってもうた」
「えー心夜なに」
「敏弥の誕生日、終わってもうたな」
「誕生日とかどうでもいいよ、歳取ったなーってぐらいしか思わねーし」
「ま、誕生日関係無く今日も忙しかったしな」
「ねー。もうねっむい」
「シャワー浴びて来る?」
「んー」


仕事は忙しいて身体は疲れとる筈やのに、お互い身体を重ねるんは久々で時間を気にしながらも流されてずるずるベッドの上。

終わった時にはもう敏弥の誕生日は終わっとった。


携帯を開いて日付を確認。


おめでとう、ぐらいは言いたかったんやけどな。

今更って気もするし、タイミングが掴めへんかった。


最近はバンドも地下活動で忙しいて。
でも同じバンド内やと時間は合うモンで。

そう言うのが楽なんか、頻繁に敏弥とおる気がする。


僕とおるんが、敏弥にとって苦痛や無いんやったら。
それはそれで嬉しい。


僕のベッドの上で、怠そうに寝そべる敏弥が背伸びをして。

僕は気持ち悪いからシャワー浴びに行こうかな。


そう思いながら、入っとったメールを確認して携帯を閉じる。


「あーでも、俺の誕生日の次の日になったって事は、今日はエイプリルフールか」
「そうやね」
「何か嘘吐こっかなー。ねー心夜、どんな嘘がいい?」
「…僕に相談する事や無いやろ」
「あはは」


目を細めて、屈託無く笑う敏弥。

最近、敏弥との間に流れる穏やかな時間。

その時間を共有する度、僕は嬉しくなる。


「俺ねーまだ京君の事、好きなんだよね。好きっつーか気になるんだよねー。ねぇ、これって何だと思う?」
「……ッ、」


シーツに肘を付いて。
何でも無いように、サラッと言われたその言葉。
敏弥の射抜くような視線が僕を突き刺す。


僕は僕で、今の時間が止まったかのように動けないでいた。


「……嘘だよ、嘘。エイプリルフールっつったじゃん。心夜マジな顔んなって、ウケる」
「…あっそ」
「俺眠いし、シャワー浴びて来るわ」
「…わかった」


そう言って、敏弥はベッドから抜け出して風呂場へと向かう。
その背中を、ただ見つめて見送る。


さっきの気分から、ドン底に突き落とされる感覚。


エイプリルフールやから嘘やって?

その言葉こそ、嘘やろ。


僕の心を見透かしとんか、牽制か。


…まだ忘れられへんのか。


溜め息を吐いて、ベッドに突っ伏しながら乱暴に頭を掻く。


知っとるよ。
敏弥と京君が、今の僕と敏弥の関係のように中途半端な関係や無かったって。


間近で見て来たから。


京君にはルキ君が傍におって、そっから敏弥は余計に京君に執着するようになった気がする。

本人は自覚無いみたいやけど。


京君も京君で、敏弥が嫌いって言うよりも怖がっとるように見えるし。


お互い、触れ合ったら爆発しそうな。
そんな存在。


長年、バカみたいに片想いしてたから人間観察には敏感になる。


ホンマに楽しそうな無邪気な笑顔。

ドス黒い部分が露になる、敏弥の表情。


どっちがホンマなん、敏弥。


僕もシャワー浴びたかったけど、一緒に、とは言われへんかった。


アホらし。
敏弥の言葉一挙一動に心ん中乱されて。


好きやからって理由で追いかけるには大人になり過ぎた筈やのに。


欲しい人が間近でおったら、そんな冷静さなんて皆無。


「しーんや」
「……」
「上がったよ。心夜もシャワー浴びて来れば」
「…うん、そーする」
「どうしたの。顔色悪ィーよ」
「……」


コイツは。
わざとなんか何なんか。


「別に何でも無いし。シャワー浴びて来るわ、先寝とって」


敏弥の顔を見ぃへんと、ベッドから起き上がって敏弥の脇を擦り抜ける。


「ふーん。嘘吐き」
「……今日は、嘘吐いてえぇ日やろ」


知っとんなら、何も言わんといて。


敏弥の視線を感じてへんフリをして、逃げるようにバスルームに入る。

さっきまで敏弥が使いよったから、室内は温かかった。


シャワーコックを捻って、頭から湯を被る。


後ろん中から、敏弥が出した精液が太股を流れる感覚。


「……ッ、」


敏弥の吐いた『嘘』は。


僕の事、好きやないって言われとるみたいで。


いくらヤッても、一緒におっても。
無意味なんかな。


シャワーを浴びながら額を浴室の壁に擦り付ける。


好きや、敏弥。


この感情が、嘘やったらえぇのに。




20110401



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