愛と蜜と傷/京流
ラブホテルにしては綺麗な造りの室内。
広いベッドの上で、隣におる名前聞いたかどうかも忘れた女が緩く喋るんに、上体だけ起こした状態で適当に相槌打ちながら煙草を吸う。
飲み会で。
えぇ感じに酒も入っとったし、あからさまなアピールはして来んまでもそう言う雰囲気出しとった女は僕の好みやって。
そのまま、終わった後お持ち帰りでラブホ行ってヤッたら。
酒入っとってあんま働かんかった思考回路も鮮明になって来る。
今日どうしようか。
帰ろかな。
薫君ちに行こかな。
独りでおりたく無いけど、この女ともおりたく無い。
経験上、飲み会に顔出すレベルの女は何しとるかわからん。
僕のファンやって言うとっても、他のどいつにも言うとんって話やん。
それは、僕にバレへんように隠しとったらえぇよ。
バレたら切るけど。
どうせお互い、関係性に意味なんて持たへんモンやから。
ぼんやりとそんな事を考えとると、僕の左側におった女の指が僕の左手首にある傷に触れた。
「…触らんといて」
「あ、ごめんなさい…」
「んー。結構触ると痛いねん。御免な?」
自分でも吐き気がする声で、そう言うと少し怯えた女の瞳に安堵の色が見えた。
僕がライブで自傷をしとると、時々関係を持った女は自分は受け入れたるって崇高でヘドが出る精神の元、自傷痕に興味を持つけど。
誰もそんな事頼んで無いし、頼むつもりも無い。
あぁ、やっぱめんどくさいなってそう思った。
アイツと別れてからは、僕の携帯にはアイツと付き合う前以上の様々なジャンルに仕分けられた女の番号が入っとって。
それでも満たされへんくて、増えていくモンに自分でもウンザリする。
めんどくさい。
けど、満たすモンが欲しい。
つーか別の意味でヤリたい。
女の身体は柔らかいし勝手に濡れるし、男慣れしたフェラチオも。
かわえぇと思うし、避妊さえ気ぃ付けとったら気持ちえぇモンやけど。
過去アイツと散々ヤリまくっとった僕の身体はそれでも満足出来ひんかった。
女は簡単に手に入るけど、男相手ともなると無理やろ。
今更、男漁りにそう言う所行けっつーんかって話やし。
何より、アイツやったからヤッとっただけで知らん男相手に足開くや屈辱的な事この上無いわ。
僕は嫌。
役割が違うだけで、やっとる事はこの女も僕も変わらんモンやろけどな。
身体を捻って、枕元にある灰皿に煙草を押し付ける。
そんな事を考えとったら、余計な事は一切聞かない文句も言わない、同じ男に犯されるんわかっとって金さえ運んで来る馬鹿な奴が頭ん中に浮かんだ。
胸糞悪い。
僕帰るけど、どうするって隣におる女に聞いたら、終電無いし朝までおるって言う答えで。
さっきまでセックス特有の気だるい雰囲気を醸し出しとった女は僕の言葉に不満そうな態度を取った。
顔はかわえぇし、色白やしちっさいけど胸デカかったし。
身体はえぇ女やったけど、その瞬間面倒な女やなって思ってもうて。
それでも、染み付いた癖でそんな女にベッドから降りる前、宥める様に軽いキスをした。
それだけで気分が浮上する、女はホンマにめんどくさい。
「…また会えますか」
「んー。忙しいけど、また時間見つけたら連絡するし」
着替えながら、そう返す。
多分もう、連絡する事は無いやろけど。
ラブホを出て、冷たい夜風が吹き抜ける夜中の繁華街を抜けながら携帯をチェックする。
何件か入っとるメールを読みながら、新着メール。
さっきまで一緒におった女。
アホみたいに絵文字使われとるメールの文面。
こうやって、必死に繋ぎ止める手段の小さい機械。
僕が呼び出しせな、一切鳴る事が無いあのガキのメール。
あのガキも、必死に此処までしたらかわえぇモンやろに。
そう思うけど、こんな女共と違う所が僕には楽やった。
携帯を操作して、さっきまで時間を共にしとった女のメアドを削除した。
どうせ繋がり共に飽きたらメアド変えるし。
簡単に、削除出来る関係。
アイツとの関係も、あっさりと切り捨てられる関係やったら。
こんな事に、ならんかったんかな。
あ、アカン。
そんなん考えたら無性に、───────。
なぁ、誰か助けて。
信用なんて出来ひんけど。
終
20110331
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