iPhone loess/京流
ソファに座って胡座掻いて、その上にノートパソコン乗せてイジっとると、るきが仕事から帰って来た。
いつもやったらガサガサばたばた煩いんに、今日は何も音がせん。
るき帰って来たって思った音は気の所為やったんかって思ったけど。
廊下からドアが開いて部屋に入って来た、るき。
そっちに視線を向けると何やめっちゃ暗いんやけど。
なん、どしたんコイツ。
いつもやったら帰って来た瞬間、僕の姿見つけて京さん京さん言うて1日あった事話し出すのに。
疲れとんか。
ほな早よ寝ぇやー、とか呑気に思いながらパソコン画面にまた視線を戻した。
「…京さん」
「え?」
「京さん」
「何やの」
重い足取りで、僕が座るソファんトコ来たと思ったら。
これまた暗い声で僕の名前を呼ぶ。
何やねん。
キモいわ。
「俺、」
「……」
「iPhone無くしたんですけど…」
「は?」
「iPhone、無くしちゃったんです…」
「え?携帯?」
「そうです携帯無くしちゃったんです」
「アホやな。止めたら」
「もう止めました。あぁー…ショック過ぎる…!」
「……」
ウザ。
るきが段々声を上げて、隣に座って僕の腕を揺さぶって来る。
やってなぁー。
携帯無くした言われても…アホとしか言い様が無いんやけど。
「ちょっと京さん!ちゃんと聞いて下さいよ!京さんと撮った画像も入ってるんですよアレ!」
「はぁ!?そんなん無くしたんかお前!」
「だから困ってるんです!京さんとの写メが!」
「アホか!そんなん他人に見られたらどなんすんねん!」
「一応、他のバンドマンのアドレスとかも入ってるんで、携帯にはロックかけてます!」
「ならえぇわ。新しいん買え」
「あぁあぁ〜…電話帳とか受信メールとか一部の画像はロムに入れてあるんですけど…まだ京さんと写メったヤツで移してねーのもあんのに…」
隣で嘆く様な声を出しながら、僕の肩に額を擦り付けて甘えて来るるき。
iPhoneなぁー。
買った時は楽しそうにイジっとったな、そう言えば。
よう一緒に写メ撮りましょう言うて、勝手にるきが撮りよった気ぃする。
つーか、その撮った写メを勝手に僕の携帯に送っとったな……るきとの写メは僕の携帯に残っとるけど、めんどいから言わんとこ。
グダグダ僕の隣で愚痴とるるきに溜め息を吐いて、仕事でチェックしとったパソコンをログアウトする。
メモリ残っとんならえぇやん、もう。
携帯無いん不便やし、さっさと新しいん買え。
「今日1日中携帯無かったし…人間、昔は携帯持って無かった筈なのに無いと不便ですよね」
「あぁ、な。携帯は必要やわ」
「もうショック過ぎる。無くした時が嫌なんでiPhoneと携帯、2台持ちしようかな」
「…何に使うん2台も」
「1つは京さん専用です!メモリも画像も京さんオンリー」
「キショ。ってかそっちの携帯また無くしたら意味無いんちゃう」
「あ、そっかー…あー…俺のiPhone出て来ねーかなー…」
腕を伸ばしてパソコンをソファの前のガラステーブルに置く。
隣でるきがまたアホな事言うとる。
ホンマにコイツは…僕ん事ばっか言うて若干キモいんやけど。
グダグダ言うて何や甘えて来よるし。
愚痴るか僕の腕に甘えるかどっちかにせぇ。
僕はどっちも嫌やけど。
デコメ使ったり、写メを撮りたがったり、こんな風に駄々捏ねるみたいに甘えてみたり。
女か。
ウザい部類の女か。
いい加減、嫌んなって腕にまとわりつくるきの手を振り払う。
「京さん、新しい携帯買ったらいっぱい写メ撮りましょうね!」
「嫌や」
「ケチ!」
「また無くしたらウザい」
「無くしません。パソコンに画像入れておきますから」
「嫌」
るきはそんなん気にせんと、話し掛けて来て。
まぁ別に、いつもの事やからえぇけど。
なんて、慣れって怖いな。
僕が適当に返事しよるんも、るきにとっては慣れた事やから気にせず話する。
もうえぇやん、携帯の写メなんて。
それ以上に蓄積した、この生活があるんやから。
終
20110330
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