いってらっしゃいのキス/京流
今日は俺と京さんが似たような時間に仕事に出て。
まぁ、京さんの方が早いんだけどね。
出掛けんのは。
お互い向かい合って飯食って。
(まぁまたパンだったからスゲー文句言ってたけど)
全身真っ黒の服を選んで、少し伸びた髪をセットしてシルバーアクセを付ける京さん。
俺も俺で、洗い物をして着替えて鏡の前で髪の毛にヘアアイロン。
あー今日も遅いかな。
洗濯溜まってんだよなー。
2人暮らしだからそんな無いけどさ。
そんな事を思いながら、鏡を見て真剣に髪を伸ばしてたら。
京さんが玄関へ向かう気配がして洗面所から顔を出す。
「あ、もう京さん出る時間ですか?」
「んー」
出掛ける準備が出来た京さんは、サングラスを掛けて玄関へ向かう。
俺は見送りで、髪の毛をストレートアイロンかけてた途中の前髪結んだ状態で京さんの後をついて行く。
京さんは玄関でしゃがんで、編み上げブーツを履いてて。
その背中を見つめて京さんが立ち上がるのを待つ。
「京さん京さん」
「ん?」
立ち上がった時に、京さんを呼ぶと京さんが振り返った、ら。
「いってらっしゃいのキス、」
「え、うわ、キモ」
「……」
玄関てさ、段差あんじゃん。
元々俺の方が背が高いんだけど、靴履いた京さんと、廊下で立ってる俺だと俺のが確実高くなんの。
で、京さんにいってらっしゃいのキスしようとしたら、下から物凄い嫌そうな顔をして口元を押さえられて仰け反られた。
…そんなに嫌がらなくても。
俺の口を塞ぐ京さんの手を掴んで、下に下ろす。
「…京さん、いってらっしゃいのキス」
「は?いやいや、今までそんなんしとらんかったやん。いきなり何なん。ホンマお前時々ようわからん」
「時々はしてましたよ。奥さんにいってらっしゃいのキスされる旦那って、事故に遭う確率低いらしいんですよ。だからこれはしなきゃダメだなって思って」
「いやどうせマネ迎えに来とるし。事故った時は事故った時やろ」
「それじゃダメですって」
「わかったわかった。えぇから離せ」
「嫌です」
「…この糞ガキ…」
京さんの手を掴んだままでいると、京さんは視線を逸らして舌打ちをした。
めちゃくちゃ面倒臭そうな表情で頭を掻いて。
まぁ京さんの力だったら簡単に振り解けるんだけどね。
「大体お前、僕の奥さんちゃうやん」
「えーじゃ、何ですか俺」
「……飼い犬?」
「…お手はしませんよ」
「知っとる。アホやから」
「もー!そんな事言うなら勝手にキスしますよ!?」
「したら?さっきからチャンスあったやろ」
「ッ、」
そう言って片方の口の端を上げて笑う京さん。
その顔格好良い。
好き。
そう言って自然に引き寄せられる様にキスしようと顔を近付ける。
唇が触れるって所で、京さんが顎を引いて空振り。
「も、京さん…!」
「はいはい。ほな行って来るわ」
「…っ」
楽しそうにニヤつく京さんに文句を言おうとすると、一瞬だけ京さんの唇が唇に触れた。
その行動に力が抜けた一瞬、京さんの手が俺の手からスルリと抜け出て。
俺に背を向けて玄関から出てった。
「あ、いってらっしゃい…!」
慌てて声を掛けると同時に、京さんが出てった扉が閉まった。
俺もすぐ出るけど、一応鍵を掛けてリビングへ戻る。
京さんの行動に口元がニヤつく。
そう言うサラッとする所とか、好き過ぎる。
また洗面台の前に立って鏡に写る自分の顔を見ると、明らかにニヤついてた。
飼い犬のキスでも、事故に遭う確率減るんですかね、京さん。
なんて、口実でこれからもキス強請ろ。
終
20110329
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