月明かりの下/京流
仕事が終わって深夜に帰って来て、風呂も入ったしそろそろ寝よかってソファに座りながら煙草を吸ってボーッとする。
ねむー。
でもまだ自宅に帰れるだけマシか。
るきはまだ帰って来てへんらしい。
アイツも忙しいわな。
静寂の中、煙草ももう吸い終わって灰皿に押し付けて寝よかって時。
玄関の方から鍵が開く音。
それと、何や慌ただしくこっちに向かって来る足音が聞こえる。
夜中やのに元気な奴やなぁ…。
「ッあ!京さん起きてた…!」
「…何、煩い」
リビングのドアが開くと、仕事行っとんのに何やいつも無駄に気合いが入っとる様な服装のるきが入って来た。
サングラスを外して、帽子を取りながら僕が座っとるソファに近づいて来る。
「あー、もうすぐ時間!京さん!ベランダ行きますよ」
「は?何言うとんお前…僕今から寝るんやけど」
「ちょっとだけでいいですから!今日は月が特別な日なんです!」
「はぁ?」
るきが帰って来るなりワケわからん事言うて来る。
なんでコイツ、時計見ながら焦っとんの?
もう4時やで、4時。
もうすぐ夜が明けるっちゅーねん。
でも、いつになく強引なるきに無理矢理追い立てられて、渋々ソファから立ち上がる。
したら、るきは僕の手を取ってベランダへと引っ張ってった。
カーテンを開けて、窓を開けると。
生温い気温が肌を撫でる。
ちょぉ僕せっかく風呂入ったんに。
Tシャツの上にジャージの格好は若干肌寒いわ。
そう思っても、るきが早く早くって僕を引っ張るから、ホンマ何なんコイツって思いながらベランダ用のクロックスを履く。
「あ、よかった。ベランダからベスポジで月見えるし」
「お前さっきから何なん。月がどしたん」
まぁ、今日は満月なんか知らん、星や見えへんけど月は明るくて夜やけど結構明るい感じやった。
眼下に広がる景色も、結構明るいけどな。
でも何なん。
ベランダに出て、るきと並んでおるって言う、この状況。
「今日の午前3時10分に満月になって、それから1時間後の4時9分に月が最も地球に近い所を通過するらしいんです」
「ふーん」
「地球と月の距離が最短距離な事から『エクストラ・スーパームーン』って言われるらしいですよー。19年振りだそうです。あ、今4時3分。あと6分です」
「え、もしかしてそん時まで此処におる気?」
「え?そうですけど。だって月と地球が最も近付く時間ですよ。何かロマンチックじゃないですか」
「…近いか近ないんかようわからんやん」
「でも、せっかく京さんも起きてたし…一緒に見たいじゃないですか。自然の神秘、みたいな」
「……」
あぁ、コイツそう言えば意外にロマンチストやったな。
月明かりの中、るきの顔をチラッと見ると、月を見上げとる横顔。
いつも見慣れとんのに、こう言うトコで見るとまた違って見える感じがする。
「…あ、後3分ですよ、京さん」
「……」
律儀にカウントダウンしながら笑うるきに若干呆れつつ、何となくるきの腕を掴んで身体を引き寄せる。
「え…っ、…!?」
るきは驚いた顔をしとったけど、無視ってるきの唇にキスをした。
るきは特に抵抗無く、直ぐ僕の首に腕が回された。
何度かるきの唇に吸い付いて、唇を舐めるとるきの口が開かれて舌を捩じ込む。
微かに声を上げながら段々とキスに夢中になってくるきが、僕の首筋や頭を撫でた。
口内で舌を絡めて、十分堪能して唇の端を舐めながら離すと。
るきは惚けた顔でじっと僕の顔を見てきよった。
「…あ、京さ、」
「…るき、時間いけるん?」
「あッ!そうだった!って時間過ぎてるし!」
さっきの雰囲気とは打って変わって慌てて時間を確認したるきは、過ぎた時間を見てちょぉショック受けとった。
笑える。
そんな事ぐらいで落ち込むなや。
「ははッ、残念やったなぁー」
「…京さんわざとでしょ」
「知らーん。寒い。早よ寝よー」
「もう。地球に一番近い月見たかったのに」
るきは過ぎた時間に文句を垂れながら、さっさと中へ入ろうとする僕の後をついて来た。
やっぱ暖かい言うても寒かったから、部屋ん中に入るとあったかかった。
「あ、でも月が近付いた瞬間に京さんとキスしてたって、ロマンチックですよね!」
「…アホか」
コイツの思考回路はポジティブやなぁ。
感心するわ。
「また次の機会も一緒に見ましょうね」
「はいはい」
次の機会って何十年後とかちゃうの。
やけど、否定する気は起きひんくて適当に相槌打ったら、めっちゃ嬉しそうな顔しとったるき。
アホでかわえぇなって、思ってしもたやんか。
ムカつく。
終
20110320
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