見えない所有感/京流




寝る前のちょっとした時間。
風呂も入って、ソファに座ってダラダラする。

るきが選んで買って来た白ワインを少しずつ口付けながら、何となくつけとったテレビをボーッと見る。


るきはいつものラグの上に座って、ソファを背凭れにする。
手には缶チューハイ持ちながら、眼鏡を掛けてパソコンと睨めっこ。

いつものるき。

テレビもつまらんし、手元にあったるきの傷んだ髪の毛に手を伸ばす。


キシキシに傷んだ髪の手触りは悪い。
あんま指通りがよくない髪を何となく梳きよると、るきが缶をガラステーブルに置いて僕の方を振り返った。


いつもの黒ブチ眼鏡を掛けて、レンズ越しに細められた目が見える。


「擽ったいですよー、京さん」
「…伸びたな、お前」
「え?あ、髪ですか?」
「そー」
「うわわっ、ちょ、引っ張ったら痛いです京さん」
「はは、このまま毟り取ったろか」
「え、そんな事したら一部ハゲなんで嫌なんで、京さんとお揃いの髪型にしますよ」
「…何なん、その捨て身の脅し文句」


るきの長ったらしい髪の束を少し掴んで引っ張ったら。
痛みを軽減させる為にるきは頭ごとこっちに来よって。

その様子がおもろい。


るきの言葉に、呆れるわ、と溜め息を吐きながら髪の毛を離した。


「もう、京さん髪の毛って引っ張られると意外に痛いんですよー」
「知らん」
「京さんは引っ張る髪の毛無いですもんね」
「…喧嘩売っとんかコラ」
「い゛…!ごめんなさいすみません!ハゲる!!」
「ハゲろ」


アホな事言うるきの髪を鷲掴みにしたったら、速攻で謝って来よるるき。

なら最初から言うなっちゅーねん。


痛みに顔を歪めたるきが、ギブと言わんばかりに僕の膝を叩いて来たから。
その顔に満足して、手を離してやる。


「痛ぇ…京さんは俺がハゲてもいいんですか!」
「あー…いいんちゃうしたいんやったら」


るきは手櫛で髪を整えながら、僕ん方を見て来て。

ま、るきがハゲとんや似合わなさすぎて笑えるしな。

身体張ったギャグにしか思えんわ。


「…全スキンにして、ハゲた部分に『京虜』って刺青入れますよ。髪の毛伸びたらわかんねーし、剃った時だけ見えるって言う感じで」
「…痛々しい事すんなやキショく悪い」
「ダメですかねー?此処に入れたら格好良いと思うんすけど」


そう言うてるきは自分のこめかみの辺りを指で差した。

別に見えへんトコに刺青入れるんはえぇけど、文字がどうなん。

るきやから僕が許可したらあっさり入れて来そう。


見る僕の方が気まずいわ。


「何かこう…身体に京さんの名前刻みたいんですよね。ほら、持ち物には名前書くじゃないですか」
「……」


それ言うたらるきは僕の持ち物か。

お前はそれでいいんか。

るき、って言う個人はそれでいいんか。


どんだけドMやねん、コイツ。


ホンマにアホや。


「大体、るきは坊主にしたらアカンやろ、事務所的に。煩そうやん、お前んトコ」
「…そこは、ゴリ押しして…」
「は、前のドレッドん時も散々文句言われたー言うて愚痴っとったやないか」
「でもアレは最終的に許可貰いましたよ!」
「諦めたんやろー」
「京さんだって坊主じゃないですか!」
「僕んトコと、お前んトコはちゃうんですー」
「……」


あ、るきがちょっと拗ねた顔んなった。

コイツは普段あんま怒りを僕に悟られんようにしようとするけど、すぐ顔に出てようわかる。

それに気付いてへんのやろか。


それを見て、つい笑いそうになるのを口許に手をやってソファに肘付いてやり過ごす。

拗ねたるきの顔は時々鬱陶しいて、かわえぇって思う。

僕の機嫌がいい時だけ。


僕のモンやって、名前書くより。
無くさんかったらえぇ話やん。

名前書いてへんくても。


無くす予定なんか、無いんやから。




20110228



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