Past wound/京流+薫
早めにスタジオに行くと、いつもは遅刻するか最後に来るかする京君がもう来とって。
ソファに座って寝とった様やけど、俺が入ってったら気付いたみたく目を開けて顔を上げた。
「おはよ、京君。珍しく早いやん」
「あー…うん」
「…どしたん?寝不足?」
「んー…」
「珈琲淹れよか?」
「いらん」
「ほうか。でも顔酷いで。昨日誕生日やったやん。ルキ君とはしゃぎすぎたんとちゃうー?」
「……」
ホンマ、京君は疲れとるって言うか。
何や憔悴した様な顔しとったから、心配やし。
京君の右隣に座る。
ちょっと茶化して言うてみたら、京君は、ふ、と視線をそらした。
「…どしたん?ルキ君と喧嘩でもしたん?」
「…ちゃう」
「ほならえぇけど。あんま塞ぎ込んどるとルキ君も心ぱ、」
「煩い。ちょぉ黙って」
「……」
京君がホンマ鬱陶しそうに溜め息吐いて、自分の頭を掻く。
…うん。
まぁ京君の機嫌が悪いんは今に始まった事ちゃうし、慣れとるから全然えぇんやけど。
それよりも、手を動かした時に見えた墨の下に見える皮膚が赤くなっとんに目を奪われる。
大抵の傷や痣は刺青に隠れて見えへんけど、京君の赤くなった手はちょうど握り拳を作って殴った時に出来るモノで。
思わず京君の右手首を掴む。
「…なん、」
「昨日、ルキ君とホンマ何もなかったん?」
「………」
京君が、俺が凝視してる所を見て気付いて舌打ちをした。
何度となく見て来た痣。
ここ数年は、見かけへんかったのに。
…前のコイツの誕生日の時も見かけたな。
夜に嫌な音が響いて、朝にはコロッと2人仲良さそうにしとったけど。
そう言う関係が、他人の目から見たら尋常やない事は確かで。
「何でもないわ。るきが勝手に、」
「勝手に、何?」
「…別に薫君には関係無いやろ」
「そうかもしれんけど…」
確かに関係無い。
2人共えぇ大人やし、わかっとる筈や。
ルキ君と一緒におって、京君は穏やかになってったし自傷もせんくなった。
また笑う様になった。
それは凄い嬉しい事で。
けど、時々思う。
京君が、此処までルキ君に執着して依存して。
お互い潰れて行ったらどうしようって。
ルキ君と一緒におる京君は幸せそうに見えて、それはルキ君も同様で。
でも、感情を爆発させる起爆剤になるんもルキ君なんやったら。
2人は一緒におって大丈夫なんやろか。
「…ルキ君は知っとる?」
「何が」
「…敏弥との事」
「───知らん。知る必要も無いやろ」
「……」
京君の手首を掴んだままやったから、京君は乱暴に腕を自分の方に引いた。
「…話し合う機会持つか、京君」
「はぁ?何を話し合うねん。るきとやったら別に、」
「ルキ君ちゃう。敏弥と」
「……」
京君の目が、一瞬揺らぐ。
別れてから何年も2人はまともに話しとらんくて。
最初こそグダグダやったけど、今は2人、表面上の仕事だけは何とかやっていける様になった。
でも、お互い意識しすぎてトラウマんなっとる事は確実で。
京君は、敏弥とのわだかまりが解けへんかったらルキ君と同じ事を繰り返しそうな気がする。
「嫌や。今更話する事やない」
「でも、」
「嫌や言うとるやろ!絶対嫌や!別に今までも普通にいっとんやからえぇやろ!今更あいつに言う事やないわ!僕を捨てた奴なんか…っ!!」
「京君」
普通、やないやろ。
敏弥の事んなると、此処まで感情的になるんやから。
そこまで京君の中での敏弥の存在は大きくて。
少しでも触れたら爆発しそう。
ルキ君は事情知らんから、そこに触れてまうんやろな。
叫び出しそうになる京君の両手首を掴んで、こっちを向かせる。
俯いて表情は見えへんけど、掴んだ両手首の掌は固く握られとって白くなっとった。
「…、」
口を開きかけた所で、ドア付近から人が話す声が聞こえて来たから。
京君の手首を離す。
京君は俯いたまま、ソファの肘掛けに寄り掛かる体勢で寝に入る。
「───何やぁ、薫と京君もう来とったんかいな。はよ」
「…おはよ」
「おぅ、ちょぉ早よ来たんよ。堕威と心夜も早いやん」
「やろ。今日は目覚めよかってん」
「ほうかー」
続いて入って来た堕威と心夜と会話をしながら、チラッと京君を見やる。
タイミングを逃してもうたから、あの話は無理かって思って溜め息。
実際問題、話し合いでどうこう出来るモンでも無いかもしれんけど。
「あ、今日薫誕生日やんな、おめでとさん」
「ん、ありがとなぁ」
「昨日は京君やったし、2月は誕生日続くよなぁ」
「ホンマやめでたい日やな」
ただ、京君には幸せになって貰いたい。
それだけやねんけどな。
終
20110306
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