好きなのはお互い様で/敏京
『……あ゛ぃ』
「うわ、何その声。寝てた?」
『…寝とった…としや?』
「うん、そー。敏弥だよー」
『ん゛ー…』
「寝ないでよ?」
『…ん』
電話口で聞こえる京君の声に笑みが零れる。
長期のオフ。
俺はかなり久々に実家に帰る事になって。
いつも一緒にいる京君が、今はいない。
家族と過ごしたり、地元の奴らと飲みに行ったりして楽しかったけど。
やっぱ京君がいてくれた方がいいなー、とか。
そんな事思ったり。
一緒に来る?って聞いたけど、家で寝てるって断られちゃった。
まぁ、来ても恋人ですとか、言えないんだけどね。
やっぱ、両親には色々と。
夕べは地元の奴らと散々バカ騒ぎして、起きたの昼過ぎ。
京君にはメール送ってたりしたんだけど、返信無かったし。
寝てたっぽい。
今はもう夕方に近い時間だよ、京君。
睡眠大好きな京君だから、寝て過ごすって言うのを実行してるらしい。
俺は実家で見慣れた景色を見ながら、愛しい人の寝起きで枯れた声に目を細める。
今どんな状態か、見なくてもわかる。
部屋で一人、京君の事を思いながらニヤついてる俺はかなり怪しいんだろうな。
だって京君大好きなんだもん。
『いま何時…』
「んー…昼の3時過ぎ」
『あそー…眠、』
「どんだけ寝てんの。メール返してよー」
『だってお前下らん事ばっか送って来るし…いちいち返信しとれんわ。何通送って来んねん』
「だって好きなんだもん」
『はいはい』
「流さないでよ、もー!」
電話の向こうの京君が、伸びをしてる時の間延びした声が聞こえて、溜め息。
起きたのかな?
『実家どうなん』
「ん、まぁ楽っちゃー楽だねー。昨日、地元の奴らと久々に飲みに行ったんだけど、俺らの音楽聴いててくれてて。京君の事格好良いって言ってたよ」
『ふーん』
「だから、京君は俺の恋人ですって」
『え?言うたん?』
「言いたかったけど我慢した」
『ははっ、偉い偉い』
「でしょ?もっと誉めて」
『アホか。調子乗んな。あー…久々に僕も実家帰ろうかなー』
「あ、それは俺も行きたい」
『何でやねん』
「ご両親に挨拶を」
『死ね』
2人して笑いながら、窓の外を見つめる。
天気は良くないけど。
あー…何か。
空が暗いと寂しくなるね。
京君とは電話で繋がってるけど、触れないし抱き締められない。
キスしたいなー。
「京君ちゃんとご飯食べてる?」
『あー…あんま食ってへんなー…ほとんど寝とった』
「ダメじゃん。ちゃんと食べて」
『やってめんどいし』
「もー。京君は俺がいなきゃダメなんだからー」
『は、何それ』
俺といる時はお菓子でもご飯でも、何かしら食べてんじゃん。
明日に帰るけど、ちゃんと食べないと体調崩すよー。
「愛しい敏弥君は明日帰るので、一緒にご飯食べに行こうね」
『誰がやねん。キショい事言うなや』
「だってほんとの事じゃん。あ、今って京君ち?帰りすぐ寄るし」
『…あー…、うん』
「…え、もしかして俺んち?」
『……』
「え、え?マジで?ちょ、まっ、え、可愛いー!!」
『っさいわ。死ね』
「やーだー。明日超早く帰るね!」
『別にえぇよ。実家でゆっくりしとき』
「ダメ。俺がダメ。今すぐにでも京君を抱き締めたい。大好き過ぎる」
『ふーん』
京君のいつもの様に気の無い返事。
でも行動が可愛すぎる。
そっかぁー…俺がいなくても俺んちに来ちゃうか。
もー可愛いなぁ。
だから大好きで愛しいんだよー。
京君いなくて寂しいけど、今の電話で超癒された、俺。
大好き。
京君も、そうだといいな。
『ほな、真っ直ぐ帰って来いよ』
「うん!俺んちに真っ直ぐ帰るね!」
『…知らん』
「ふふっ、大好きだよ、京君」
『うん、』
言葉にしない君の表現はどんな言葉よりも饒舌。
終
20110211
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