爪痕/京流




夜中。

ベッドの上で寝転がって。

ヤリ終わって俺に背中を向けて煙草を吸ってる京さんの背中を見つめる。


あー俺も煙草吸いてー。
けど、今は動きたくねー。


素っ裸のまま、荒く息を吐いて呼吸を整えて。


ヤリ終わったら、煙草を吸う京さんの癖。

別にそう言うのが寂しいとか女々しい事は思わねーけど。
吸ってる京さんの指とか唇、好きだし。


今日は背中がよく見える。

前までは何も無かった背中だけど、今は一面に余す事無く入れ墨が入ってる。


優しそうな千手観音の顔。

何を彫るとか、デザインは大まかに聞いてたし、彫ってる途中経過も見たけど。


今は、ほとんど完成した京さんの背中。
京さんを形成する、全てが格好良く見える。


…入れ墨が入る前までは、京さんの背中に爪を立てて。
痕が残るのが好きだった。


入れ墨を入れてる途中は、痛いから触んなって、手を拘束されてヤられたりしたけど。


今は入れ墨が京さんの背中を占領してて、爪痕が見える事は無い。


「…何」
「いえ」


ゆっくりと起き上がって、ベッドの端に座る京さんに近づいて。
俺が爪を立てたであほう京さんの背中の皮膚をなぞる。

少し汗ばんでて、小さくても薄くも無い背中。


京さんは煙草の煙を吐き出しながら、俺の方をチラッと見て来て。


「…背中、入れ墨で見えなくなっちゃったなぁって」
「何が」
「爪痕。時々、俺付けちゃってたんですよね。その痕を見るのが好きだったんですけど」
「は、悪趣味」
「だって、京さんにも痕残したんだって思うと何か嬉しくて」
「……」
「でも入れ墨に取られちゃった感じです」
「…アホらし」


うん。
ですよね。

京さんそろそろ入れる所無くなって来たんじゃねーのって思ったけど、また増やす予定らしい。

それはそれで楽しみ。

…ちょっと寂しいけど。


「…まぁ、お前よう背中に爪立てよるもんな。わざとか」
「や、そう言うワケじゃないですけど…え、気付いてたんすか」
「僕にされよるんやから、嫌でも気付くやろアホ」
「あは。京さん気付いてたなら怒られるかなって思って」
「なん、怒られたいんか」
「や、そう言うワケじゃないですけど」


何か京さんて、傷を他人に付けられるのとか怒りそうな気がして。

そう言うの、密かに楽しみにしてたのは京さんは気付いてたらしい。

気付いててそのままだって事は、京さんも嫌がってないって事で。

やっべ、それって嬉しいかも。


「…何ニヤついとんキショいな」
「いえ、何でもないです」


京さんは煙草を灰皿に押し付けて、俺の方に向き直った。

寝るのかな。


「ま、わざとにやっとんやったら腹立つけど。るきアホみたいに喘いどるし、必死な感じがえぇやん」
「…もー何ですかそれ!」
「きょーさんきょーさんってすがり付いて来とるやんいつも」
「ちょ、何か今素面でそう言う事言われるの恥ずかしいんですけど!」
「はぁ?ケツん中にブチ込まれて喘いどる奴が今更何恥ずかしがんねん。ちょっと焦らしたらお前自分から、」
「京さん!」


京さんが何かとんでもない事を言い出して、思わず手を伸ばして京さんの口を塞ぐ。

そしたらすぐに腕を振り払われた。


ヤッてる時は理性飛んでるからいいけど今は自分の痴態思い出すと、あ゛ーってなる。

京さんな口の端を歪めて楽しそうにしながら布団の中に入り込む。

俺の方に背を向けて、布団を巻き込んだ。


「えー、痛く無かったですか?背中」
「別に」
「今ジェルしてるんで、引っ掻いてもあんま痛くないんですよね」
「あっそー」


ぶっきらぼうに話をする京さんの後頭部を見つめる。


京さんの身体に痕を残すのは京さん自身がする事だけど。
爪痕を黙認してくれてたって事は、俺も痕を残すのを許可してくれた気がして。

すげー嬉しい。

京さんの身体に、俺が何か出来る事が。


俺も風呂入って寝よ。


愛しいこの人と一緒に。




20110211



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