考えるんはお前ん事/敏京
「うわ、寒ッ!!」
「あー…昼間はちょっとあったかかったのにねー」
「ありえへん嫌やー」
「そんな事言わないで。ほら、行こ?お腹空いたし」
「はー…こんな夜中まで仕事しとんや怠いわ」
「ねー」
仕事が終わって、敏弥とご飯食べて帰ろうって事になって。
スタジオから外に出た瞬間、冷たい風が全身を吹き抜ける。
もう寒い。
仕事場は嫌やけど、また部屋ん中に戻りたい。
そんな事を思いつつ、マフラーん中に顔を更に埋めて身を縮める。
チラッと敏弥を見ると、僕の方を見て笑って。
したら、視線が僕から逸れる。
「あ、薫君お疲れー」
「おぅ、2人共お疲れさん。なん、これから飯でも行くん?」
「うん」
「ほうかー。明日遅刻すんなよ。京君も」
「知らん。眠いんやししゃーないやん」
「アカンやろ(笑)ほな、気ぃ付けて帰りよ」
「おぅ。また明日ねー」
薫君が入り口から出て来たんに、敏弥は笑って声を掛けた。
一言二言話して、薫君も笑いながら手を振って帰路に着く。
その後ろ姿を見送って、敏弥の方に視線を移した。
「なーに。さ、早くご飯食べに行こ。お腹空いたよー」
「うん。僕びくドン行きたい」
「いいねー。がっつり食べたい」
薫君と反対方向の道を、敏弥と歩く。
付き合ってもうすぐ1ヶ月。
…僕の誕生日に付き合ったから、数字的に忘れへんねん。
敏弥は独占欲強くて嫉妬深いんもようわかっとるし、でも敏弥とおるんが楽しいから敏弥に繋がりとか全部切れって言われた時も。
嫌とか勿体無いとか全然思わんかった。
やから、何だかんだで僕も敏弥の事好きなんやなぁって。
節々で自覚する事がよくあったりして。
隣を歩きながら喋る、敏弥の顔をチラチラ見よると敏弥と目が合った。
「何だよー。さっきから見過ぎ」
「…や、そう言えば薫君達にいつ報告しよかなって」
「あー…だよね。それも俺思ってて、うん」
「なん、まだ決心つかへん?」
「いや、そう言うんじゃないよ。だってメンバーに報告したら、堂々といちゃつけるし」
「…メンバー前でいちゃつく予定は無いんやけど」
「まーそれは追々ね。…最近忙しいし、オフの日、薫君ち行って報告しようかなって言うのではどうでしょう、京君」
「…何でオフの日にわざわざ」
「や、薫君に言うのって、娘さんを僕に下さいって言う様なもんなんだよ!改まっていかないと」
「…ふーん。ようわからんけど」
「だって付き合う前から俺とばっか遊びに行ったりしてたじゃん!薫君が『最近敏弥と仲良いなぁーちょぉ寂しいわー』とか言ってたじゃん!」
「…あぁ」
そんなん、別に気にする事ちゃうやんなぁ。
確かに敏弥と遊ぶ頻度とか、前は薫君に頼んどった事を敏弥にしてもらうとか。
そんなんが増えた気もするけど。
次のオフか。
いつあんねんやろ。
休み欲しいわー。
サラッと付き合っとるでーって言うてもいいと思うのに、敏弥はそう言う事はきちんとしたいらしい。
『京君の事が大事だから』って恥ずかしげもなくよう言うわ。
やから約1ヶ月手ぇ出さへんねんなー。
や、1回襲われかけたけど。
僕から襲うんもなー。
やり方ようわからん、し。
キスはようするんやけどなー。
やっぱちょっと、恋人になったんやし。
そう言う行為はしたい、けど。
あーもう。
何で僕がこんなに悩まなアカンねん。
「…京君?聞いてる?」
「え?何」
「もー。聞いててよ。超ぶつぶつ言ってたよ?何考えてんのさぁ」
少し、拗ねた様な口調で僕を見下ろす敏弥。
コイツの、笑うと見える八重歯が可愛い、なんて。
敏弥に告られんかったらわからんかった事。
こんなに、敏弥の事ばっかやのに。
話聞いとらんかったて事で、拗ねる敏弥に笑って。
「お前の事しか考えてへんわボケ」
「え、えぇ…っ!?」
言うたったら、驚いた顔の次に凄い嬉しそうに笑う顔。
あー、うん。
大事に想ってくれとるんが、痛い程感じて。
付き合って後悔する暇なんか、微塵も無い。
終
20110207
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