豆をぶつける日/敏京
「…何、これ」
「あー。敏弥、お帰り」
「え、京君この豆は何?」
「はぁ?敏弥忘れたん?今日は節分やで?」
「…ッあ!!」
今日は俺だけインタビューの仕事があって。
俺んちに泊まってる京君が寝てる中、一人で仕事場行ったんだけど。
帰って来たら、テーブルの上に豆の袋が数個。
京君はソファに横になって豆もポリポリ食ってた。
可愛いけどさ。
京君の豆食ってる姿。
ふてぶてしく寝転がってるけど。
節分て聞いて、毎年の思い出が甦る。
もー!
また部屋が豆だらけになるじゃん!!
「敏弥仕事で遅い言うし、僕はオフやし暇やったから買いに行ったん」
「そー…。でも買い過ぎじゃね?」
「やって今年も豆撒きせなアカンやん。敏弥に」
「……」
やっぱり豆撒きはするんだ、京君。
それやろうとする事は可愛いけどさ。
どーせ『鬼は外』とか言いながら俺にぶつけるんでしょ。
もー。
仕事終わって、京君とご飯食べに行こうかなーとか思ってたんだけど。
京君がその気なら、俺も今年は乗ってあげる。
持ってたカバンを床に置いて。
上着を着たまま京君が買って来てテーブルに置いてる豆を一袋手に取る。
「なん、敏弥も食べるん?豆って食べよったら結構うま、」
「鬼は外ー!!」
「ちょっ、敏弥何すんやボケ!」
「福は内ー!!」
「ムッカつく!死ねやゴルァッ!!」
悠長に豆食ってる京君に、開けた袋ん中に手を突っ込んで。
豆を一掴みして京君に投げつける。
瞬間、京君は驚いて。
直ぐ様ソファから起き上がり、文句を言いながら俺に豆をぶつけて来た。
「えぇ度胸しとるやないの!お前家から追い出したるからな!!」
「此処は俺んちだっつの!京君が豆撒きしたかったんでしょ!付き合ってあげてるんだから感謝してよ!」
「何やとコラ!」
大の男2人が、言い合いしながら豆をぶつけ合ってるって。
ハタから見ればアレな光景だろうな。
俺と京君しかいないから全然いいけど。
部屋が豆だらけになってくのを尻目に、京君は2袋目に手を出した。
うん。
何か。
これはこれで楽しかったりして。
京君も楽しそうに笑ってるし。
「うわ、きっしょ!服に入ったやんか!」
「俺だって入ってるよ!もー!何すんだよ!」
「先にやって来たんはそっちやろ!」
「豆買って来たのは京君だろ!」
お互い、投げられた豆を避けながら相手にぶつけ様と投げる。
そう広くはない部屋で、2人逃げながら豆を投げ合って。
そしたら、俺は1袋しか持ってなかったから、手持ちの豆が無くなる。
「あっ、もう豆なくなっちゃ、」
「よっしゃ!覚悟せぇよ敏弥…ッ!!」
「うわわッ、京君ちょっ、タンマ!!」
「ははっ、死ねや゛ァ゛ー!!」
「やだー!!」
超笑顔の京君が、力一杯豆を投げつけて来て。
俺がキッチンの方まで逃げたから、キッチンも豆だらけ。
でもいいや。
楽しいから。
「あー…スッキリした」
「何だかんだで盛り上がったね」
「うん。あ、もう食う豆ないし」
「京君が全部投げちゃうからじゃん」
「敏弥が僕に投げるからやろ」
「毎年毎年俺が投げ付けられるのもどうかと」
「知らんわ。腹減った。どっか食べに行こ」
「うん。先に豆片付けよっか」
「えー…何か投げ過ぎて色んなトコに撒かれとるし…」
「いやいや、京君」
京君は着てたパーカーを脱いで、バサバサと振った。
フードとかに豆が挟まってたらしくて、パラパラと床に落ちる。
ま、京君は掃除すんのが嫌なんだろけど。
2人でやったんだから、2人で片付けようよ。
「帰ってからでえぇやん。な、食べに行こ」
「…仕方ないなー」
京君が笑って俺の方を見て来て。
俺の方が背が高いから、必然的に、ね。
ちっさくて可愛いんだよ京君。
言ったら怒られるけど。
「楽しかったね」
「ん。敏弥に追い出されそうになったけどな」
「京君だってじゃん!」
「はいはい。僕今日焼き肉食べに行きたい」
「あ、いいねー。焼き肉」
お互い豆を払って出掛ける準備。
京君と2人で豆だらけの部屋を後にする。
今日は敏弥おらんくて暇やったー、とか。
今日の事を饒舌に語る京君に耳を傾けて一緒に道を歩く。
そう言われると、可愛いなー好きだなーって思っちゃう。
ま、結局京君は豆の片付けをしなかったんだけど。
そんな我儘なトコも好きだから、仕方無いよね。
終
20110203
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