狂った感覚/京流+玲




京さんと会った次の日。

ボロボロの身体で、風呂に入るのもしんどかった。

血とか精液とか、こびりついて入らなきゃやってらんなかったんだけどさ。


自分の部屋で、痛む身体に眉を寄せながら洗面台で顔を洗う。

少しでも腕を動かせば脇腹かどっかわかんねーぐらい、全身が痛い。


顔を上げたら、鏡に写る自分の顔が見える。


ひでー顔。


殴られたから、所々青くなって少し膨れてる。

表情を作るのも痛い。


そして何より。


舌で煙草を消された痛み。

絶対ぇ喋れねー。

つーか今日って歌録りあったっけ?

ミーティングだけだっけ。


取り敢えず、仕事には行かなきゃなんねーんだけど。


鏡の前で舌を出して、状態を見る。


火傷、みたいな感じに赤く爛れてて。
そこだけズキズキ痛い。


口ん中の傷って治りが早いって言うけど。
今日は歌えねーよな。

喋れねーし。

あー煙草も吸えねー。


一応、イソジンでうがいしとこ。


…昨日の俺の誕生日。
メンバーの誘いを断って京さんの方に行って。


こんな傷とか作っていい気しねーだろうなー。


貢ぎんなるって言った時、反対されたし。


馬鹿な事してるってわかってんのに、また金作らなきゃとか。
そう言う事ばっか考えてしまう。


身体中が痛くて、眉を寄せて服を着替える。

マフラーとか、サングラスしてたら痣見えにくいかな。


そんな事を思いながら、鏡の前で口元までマフラーを巻いて、サングラスを掛ける。
そうすると、パッと見は痣が隠れた。


あー…今から行っても遅刻だよなー。

寒い中。
スタジオに向かう為に家を後にした。

















「…あ!きーちゃん遅いよもー!メールとかしたの見てないの?」
「ルキおはよー」
「ホンマ遅いでー。戒君怒っとんでー」
「はよ。お前寝坊でもしたのかよ」


扉を開けると、もう他のメンバーは集まっていて。

いつもと変わらない感じで、俺に言葉を向けるメンバーに。


何故か無性に泣きたくなった。


「……」


口を開くと舌と顔が痛くて。
おはようって、言葉にならない。


「おいルキどうしたんだよー。悪いモンでも食ったのかお前」
「…い゛…っ」


れいたが笑いながら俺の肩に腕を回して来て引き寄せられると、身体が痛くて思わず声が漏れた。

そしたら舌も痛くて顔を歪ませる。

サングラスしててよかった。


れいたの動きがピタッと止まって、俺をマジマジと見て来た。


「…ルキ?」
「……」
「あー…何かルキ、体調悪ぃみたい。ちょっとスタッフに薬もらって来るわー」
「え?そうなの?ルキ」
「大丈夫なん?」
「平気平気。な、ルキ」
「……」


皆が心配そうな顔をして、俺に近寄って来ようとしたのをれいたが制止して。

俺の手を引いて、スタジオを出て行った。

逆らう力もねーし、大人しくついて行く。


連れて行かれたのは、今は誰もいないトイレの中だったけど。


「ルキ」
「…ッ!」
「いや、お前見せろよ」
「…ぃ゛、や…!」


トイレに入った瞬間、れいたは俺の方を見て。
その顔は笑っていなかった。


俺の顔に手を伸ばしてサングラスを外されそうになって。
抵抗したけど、れいたに無理矢理サングラスを奪われた。


「───…何それ。ひでー顔」
「……」


わかってるよ。

少し怒ってる様な声に、れいたの顔が見れなくて視線を逸らす。


「…京さん?」
「……」
「昨日、京さんに会ったのか」
「……」


無言の肯定。

れいたが溜め息を吐く。


「つーか、何で喋んねーの?口ん中切れたとか?」
「……」
「ん?」
「……」


れいたの言葉に、マフラーを顎の下にずらして。


口を開けて舌を出した。


れいたの顔が、一瞬強張る。


「……な、にコレ」
「…ッ」
「あぁ、悪ぃ…」


れいたが俺の舌に釘付けになりながら、顔を両手で掴むから痛みに眉をしかめる。

そしたられいたはすぐに離してくれたけど。


「あー…もう…お前…」
「……」


れいたは何か言いたそうにしながら、頭を掻く。


言いたい事はわかってる。


けど、れいただから俺は此処まで見せたんだ。


他のメンバーだったら、絶対反対される。


「…誕生日に何やってんだよ馬鹿。お前、歌うのに。顔だって、ホント、お前…」


深い深呼吸をして、気持ちを落ち着かせてんのがわかる。


「…お前さ、そんな事されても、やっぱ好きなの?京さんの事」
「……」


れいたが、俺をじっと見つめて来て。
それに頷く。


他人から見れば馬鹿げた事でも。

こうなったら、離れられない。


「…じゃ、仕方ねーな。他のメンバーも気付くとは思うけど。風邪って事なら喋らなくても大丈夫じゃね。今んトコ歌録りはねーし」
「ご、め…」
「ホントによ。我儘ルキちゃんのやる事には驚かされますよー」
「…ふ、」


茶化して言ったれいたに、少し笑みが浮かぶ。

あんま表情は作れねーけど。


現実に向き合うのが嫌で、逃げてるってわかってっけど。

れいたは否定も肯定もしない。

それが、俺にとっては楽だった。


「しっかし、舌に根性焼きかー。ロックだな、ルキ」
「……は、」
「マスク、スタに貰うか」
「……」


頷くと、れいたは俺を見つめてふっと溜め息を吐いた。

俺のサングラスを差し出して来たから、それを受け取る。


「辞めろって、言いてーよ。けど、お前はそれ言ったって無駄なんだよな」
「…ん」


御免、れいた。


皆。


ズキズキ痛む舌。

あの人の存在が、ずっと俺の中で混在してる様な。


馬鹿な事だってわかってる。

でも辞める事はしない。


あの人を、手に入れたいから。




20110202



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