プロポーズよりも明確で/京流




年末年始の名古屋の京さんのライブを観てから、1日の夜に早々東京に帰って来た。

名古屋でいたって何もする事ねーし。


休みだからって仕事はまだあるし、一応正月だから実家にも顔出ししなきゃなんねーし。

ま、近いからいいんだけど。


京さんが帰って来んのは2日の夜中って行ってたし、俺はまだ休みだし。

東京でのライブがまだ残ってる京さんだけど、少しは一緒にいれっかな。


そんな事を考えながら、真夜中に自宅に帰って。
移動の疲れもあってシャワーもそこそこに、京さんがいない広いベッドで1人、眠りについた。












「京さんお帰りなさい。お疲れ様でした」
「…何や、まだ起きとったん」
「仕事もあったんで…。あ、荷物持ちます」
「ん」


疲れた顔の京さんからデカいキャリーを受け取って。
廊下を歩く京さんの後ろに付いて行く。

洗濯物だけでも出しておこうかな。


「京さんお腹空いてますか?お雑煮ありますけど…」
「あー…貰うわ。ちょぉ腹減ったし」
「はーい」


京さんが夜中に帰るってわかってたから、昼間は実家に帰って。
夜に材料を揃えて作ったお雑煮。


前は失敗したから、今回はちゃんとネットで調べて作ったんだよ。

白味噌とか、初めて買ったね。


キャリーをリビングに置いて、作っておいたお雑煮を温める。

京さんはソファに怠そうに座る後ろ頭が見えた。


俺も実家で色々食ったから、夜あんま欲しく無かったし。
一緒に食お。


丸餅もちゃんと買ったし。

白味噌仕立てで煮詰めた餅をお椀に入れて。

別に茹でてあった海老、人参、大根、里芋、三つ葉を盛り付ける。


うん、見た目も綺麗。


「京さーん、出来ましたよー」
「…おー」
「他に何か食べますか?今日実家に帰ったらお袋が色々持ってけって…」
「なん、実家帰っとったん?」
「あ、はい。正月なんで、一応」
「ほうか。別に他はいらん。…ってか何や豪華な雑煮やな」
「え?見本見て作ったんすけど、一応」
「ふーん」


のっそり起き上がってキッチンのテーブルに歩いて来た京さんは、俺が作ったお雑煮を見て呟く。

ネットのを手本にしたから、京さんの家庭の味とは違うのかも。


「いただきます」


向かい合わせに座って、手を合わせて箸を持って食べる京さんをじっと見つめる。

お椀を持って、一口。

そんな単純な動作でも、ドキドキする。
やっぱ、初めて作ったし。

不味かったら嫌じゃん。
味見はしたけど。


「……どうですか?」
「うん、普通にいける味や」
「よかったー。俺も食お」
「オイ、僕は毒味か」
「そうじゃないですけど。京さんに気に入って貰わなきゃ意味ないって言うか」
「……」


京さんが俺の方をチラッと見て、視線を落として普通に食べてくれたからひと安心。

俺も一口食べる。
お雑煮として、食った事ない味だけどこれはこれで美味しい。


「…京さん」
「何」
「俺って、京さんの好きな味も頑張ったら出来るじゃないですか」
「んー」
「俺、京さんのいい奥さんなれると思うんですよね」
「何それ。アホか」
「────今日、実家行ってたんですよ」
「……」
「親が、そろそろ結婚とかしないのかって、言うんですよね」
「……」
「…忙しいから、そんな暇ないよって、言っちゃったんです」


お雑煮の具を箸でつつきながら、ボソボソと呟く様に言う。


「京さんとの事、言えなくて…。すみません」
「…えぇよ。僕もそんなんやから。言わん方が、親孝行な時もあるし」
「……。そう、ですかね」


視線を上げると、箸を止めた京さんと目が合って。
真っ直ぐ見つめられると、逸らせない。


ねぇ、京さん。

言えなくても、祝福されなくても。
俺は京さんとずっと一緒に居たいって、思ってるんです。


「親に言われたから、とかじゃないですけど…」
「…何」
「俺はやっぱ、京さんとしか嫌なんです。あの時から、俺は京さんしか見えてないんで」
「……」
「…だから、こう…上手く言えないんですけど…結婚、とか紙面上の事なのに拘束力があって。でも俺らじゃそれは出来なくて」
「……」
「何か、そんな。繋いでおく様な証が欲しい、です」
「…僕と一生おるから、って?」
「はい」
「…僕の意思は無視か」
「……そこばっかりは譲れません。京さんが好き過ぎて他見られたら死んじゃいます、俺」
「陳腐な脅し文句やな」


鼻で笑った京さん。
それでも、目は俺をじっと見て。


「人の気持ちは変わるもんやで。どんなに好き言うても。原因なんか些細な事で冷めるもんや」
「……俺、は」
「そんな事ないって言えるん?」
「言えます」


そう言い切ると、京さんは。

少し困った様に、悲しそうに、笑った。


時々、京さんに見えるこう言う表情。

この顔を見ると胸が締め付けられる。


だって。
俺の知らない、京さんの心の中があって。


俺から離れていっちゃうんじゃないかって、不安になる。


だから、何でもいいから証が欲しい。

京さんと一緒に、居る事の。


「るきの親が知ったら泣くかもな」
「……はい」
「僕の方は、知らんけど」
「……すみません。京さんも巻き込んで」
「───…でも」
「……」
「るきの料理は飽きひんから、これからも食ったってもえぇよ」
「───…ッ。…だから言ったじゃないですか。いい奥さんになるって」
「言うとれ、アホ」


そう言って、またお雑煮を食べ始めた京さん。

何かもう、時々、京さんは俺の言葉を真剣に聞いて答えてくれる。


そう言う所も、好き。


だって俺との事を真剣に考えてくれてるって事で。
向き合ってくれるから。


ぼやける視界で、鼻をすする。


「……また、何か形になる物、残したいなー。俺と京さんとの」
「ま、えぇんちゃう。むやみに人に言う事ではないけど、るきの気ぃ済むなら」
「海外行ったら、結婚式出来るらしいですよ」
「絶対嫌。海外や行きたない」


ですよねー。

また何か、考えておこう。


大好きだから。


一生、一緒に居たいんです。


愛してるから。


誰よりも、愛を欲しがる貴方が。
俺を相手に選んでくれたから。




20110128



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