世界で一番、/京流
深夜。
帰ったらるきがパソコンの前で炬燵に突っ伏して寝とった。
ヘッドフォンつけたままやって、炬燵で寝たら風邪引くでーって思ったけど、音漏れしとるんに眉を潜める。
そう言えば、今日やったか。
るきのパソコンに映し出されたソレはリピート再生になっとって。
サングラスを外して溜め息を吐いて、るきがおる隣の面の炬燵に入る。
外むっちゃ寒かったから、炬燵があったかい。
るきが買った時、この部屋に炬燵?って思ったけど。
あったらあったでえぇな。
爆音で聴きまくっとんのによう寝れるわー。
とか、そんな事を思いながら、るきの頭を見つめる。
パソコンの横に置かれた見慣れたジャケットと、もう一つ。
「…何や、これも買ったんや」
ガラから話は聴いとったし、出来映えも聴かしてもらったけど。
結構日数経っとるから忘れとった。
コイツよう音源買うなぁ…僕もやけど、ラックん中とかいっぱいやし。
手に取った音源を置いて、炬燵で温まったし風呂入って寝よかな、とかそんな事を考えた時。
るきが動いた。
「…んー……、あ、京さん!!」
「…ちょ、煩い」
「えっ?何ですか?」
「やから煩いって」
るきはヘッドフォンで爆音聴いとるから、声の音量調節が出来んらしい。
普段よりデカい声で喋るるきに眉を寄せると、るきはマウスで音楽を止めてヘッドフォンを外して。
傍にあった眼鏡を掛けた。
「京さん帰ってたんですね、おかえりなさい」
「うん。風呂は」
「沸いてます。ご飯は?何か作りましょうか?」
「や、もう寝るからいい。眠いし」
とか言いながら、炬燵あったかいから出たないけど。
「京さんの新曲買ったんですけど…」
「あぁ…何で?」
「え、好きだからです」
「ふーん」
「ライブでは聴いてたんですけど、音源で聴くとまた違ってヤバいですね。凄いです。色んな意味で」
「当たり前やん。僕らが作ったヤツやし。つーかお前僕んトコが何か出す度にいちいちファンみたいな事するんヤメ」
「えーじゃ、京さん新しく出したらもらって来てくれるんですか?」
「…それはないな」
サンプルもらうけど、るきにはあげた事ない気がする。
掃除とかするんはるきやから見とる筈やねんけど、僕があげてへんからか手ぇ出さへんねんな。
「でしょー。俺は聴きたいんです!京さんは好きな人であって、俺の憧れでもあるんですから」
「まだ言うか」
眼鏡越しに笑うるきと目が合った。
僕の汚い部分も全部見とってまだ僕を『憧れ』と言うコイツは少し頭がおかしいんやないかと。
結構前から思っとったけど。
そう言う頭足りひんトコがアホみたいで気に入っとるからえぇ、か。
「あ!あと京さん!俺も京さんの曲歌いたいです!」
「は?」
「これ!ガラさん歌ってるじゃないですか!」
「あぁー…ガラやからやないの」
「俺だって…、」
「無理無理。るきには無理」
「…何でですか」
「……カバーされるんは僕の曲であって僕の曲やないの。これはガラやから出来た事」
「……」
「聴いて僕の曲やけど違うって思ったやろ?」
「…はい」
「僕の曲が好きやから歌う、やなくて、自分の物にせなアカンの。せやから、るきには無理」
「…何か、悔しいんですけど」
「ま、後は大人の事情で無理やろな」
「あー…確かに。でも何かこう言うの、いいなー。ガラさんは京さんの後輩って公言してるし。俺は一切言えねーし」
「なん、好きな人ですーとでも言いたいん」
「そりゃ、まぁ…したら社長に怒られそう」
「僕んトコは無視るから」
「うわ、それショック」
当たり前やん。
別に他人の噂はどうでもえぇけど、お互いの仕事に支障きたす様な事を公言するん避けるんには越した事はない。
「…でもやっぱ今回のは…ガラさんに嫉妬、します」
「しとったら。僕は知らんし」
「ひでー。京さん!」
「は?」
「俺が世界で一番愛してるんですからね!京さんも、京さんの歌も、全部」
「…お前って、時々やなく頭イタイよな」
「えぇ!?今告白したのに」
一緒に住んどる時点でヤキモチ妬く意味がない事ぐらい、わからんのかな。
このアホは。
あー…炬燵ぬくー。
終
20110127
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