唇/敏京
「京君の唇ってむにってしてるよね」
「……なに」
「可愛いなぁって」
「…言うとる意味がわかりません」
「え、むにってしてるじゃん」
「何かあんまえぇ言葉に聞こえんのやけど」
京君と2人で仕事から帰って来て、ご飯も食べて風呂入らなきゃなーって思いながらそのまま話している途中。
煙草を咥える京君の唇を見て不意に思った事を口にする。
京君は訝しげな視線を向けて来ながら煙を吐き出して灰皿に煙草を揉み消した。
うーん、表現が難しいなぁ。
むにってしてるんだもん。
「むにってしてんのが可愛いんじゃん?京君、八重歯の唇してるし」
「何やそれ…」
テーブルの90度の角度にお互い座ってるから、手を伸ばせばすぐに京君に触れられて。
髪を撫でてから、頬、親指で唇をなぞると京君は特に抵抗する事もなく、俺がやってる事をじっとして見つめて来る。
うん、可愛い。
「ん、」
「可愛いー。ちゅー」
そのまま、片手で京君の両頬を掴んだら唇がにゅっと出る形になって。
可愛かったから、そのままキスをした。
まぁ、嫌がってすぐ解かれたんだけど。
「やっめぇや!何なんホンマ!」
「京君可愛んだもん」
「お前、それ言うたら何でも許されると思うなよ」
「だって京君の唇可愛くて好きだからー」
「あーはいはい」
「ちょっと、流さないで!」
「何かウザいから嫌」
そう言うと京君はまた煙草に手を伸ばして、1本咥える。
煙草の形に形状を変える唇もいいよね。
カチッとジッポで火を点けて、噛んで煙を吐き出す京君の唇をじっと見つめる。
「………お前見すぎ」
「うん」
「うん、やなくて」
「好き」
「…唇が?」
「うん」
「…へぇ」
「だって喋る時も歌う時もヤッてる時も、全部その唇からって思うと好きになるでしょ。京君の唇分厚いからキスすると柔らかくて気持ちいいしもん。フェラは滅多にしてくんないけど」
「…僕の唇しか興味無いって事やねー」
俺がそう言うと、京君は目を細めて煙を吐き出しながら灰皿に灰を指で弾いて落とした。
天の邪鬼な君。
笑ってその唇から発する言葉は、素直じゃない京君の言葉。
「そう言う意味じゃないの、京君ならわかってるよね」
「知らーん」
「あれ、愛情表現足りなかったかー。じゃこれからもっとするね!」
「間に合ってます」
「うんうん、わかってるよねー」
にこにこしながら身体をずらして、京君の方へと近付く。
そのまま京君の唇に吸い付くと、今吸ってる煙草の味がした。
京君は、そんな俺の行動をじっと見て。
灰皿に煙草を置いて、俺の首に腕を回して今度は京君からキスして来た。
深くは無くて、柔らかいキスを何度もして。
京君に唇を甘噛みされる。
唇を離されても、京君の顔は間近にあって。
「…敏弥の唇も柔らかいで」
「そう?自分ではわかんねー」
「僕もそうやで」
「あ、そっか」
「やから、お互いが気持ちえぇようになっとんやな」
「…京君って本当に可愛いよね」
「それは言われたらムカつく」
気紛れで紡がれる京君の言葉。
嬉しい言葉。
そんな言葉が出て来る京君の唇、好き。
『京君の』って所が重要だからね。
終
20201122
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