過去のカラダ/京流
るきが寝入った後。
何か眠れんくてまた身体を起こす。
暗闇の中、手探りでサイドテーブルから煙草を探して1本咥えて火を点ける。
ライターの火で浮かび上がったるきの寝顔。
起きる気配は無い。
火を消して煙草の煙を吐き出しながら溜め息。
寝る前、るきが言うた下らん仮説の話。
るきと僕の身体が入れ替わったらって。
そんな事、ある訳無いけど。
そん中でるきが言うた言葉を反芻する。
『……中身、京さん、身体、俺の状態の京さんとセックスしたいです』
るきも男やったんやな、ってちょっと思った。
いや、男なんは見てわかるんやけど、男の本能みたいなもんか。
るきがタチんなるんや、考えた事無かったし。
けど、こいつネコ長い筈やのにな…絶対僕の方がネコ上手い自信がある。
何でや。
お前もうちょい積極的に動け。
元々受動的なんか。
あんま責めさせてはないけど。
まぁるき相手にネコになる事なんて無いけどな。
人の気も知らんで好き勝手言うて。
僕がどれだけ、衝動を抑え込んだと思っとん。
長くなった灰を灰皿に落として、るきの髪を触ると人形の髪の毛のような手触り。
コロコロ髪型変えるもんな、るき。
それは僕も同じやけど。
別れてからはしんどかった。
職業柄、相手を探す事も出来んし。
つーか、他の男となんて虫酸が走る。
薫君はヤラしてくれんかったし。
…今となっては、断ってくれて良かったと思っとるけど。
自分でするんも嫌やったし。
何より。
あいつの方が良かった、なんて思いたく無かったから。
楽しかった記憶の方が強い。
あそこまで自分を晒け出せる事なんて、もう、無い。
「…………」
アカン。
考えたらアカン。
あいつの事を考えたら吐きそう。
乱暴に煙草を揉み消して。
るきが寝とる布団を剥ぎ取って、自分もそこに身体を滑り込ませる。
るきの身体を引き寄せて、きつく抱き締める。
首筋に顔を埋めると、るきの匂いとボディーソープの匂い。
「ん…、きょうさん…?」
「…………」
さすがにるきも起きたらしいけど、無言で抱き締めたままでおるとゆっくりとした動きでるきも僕の身体に腕を回して来た。
僕の頭に擦り寄る感覚。
受け入れる分、相手への依存度が高まる行為。
もう忘れたい。
僕の身体の奥底にまで染み付いた事。
るきへの暴力と性的虐待で誤魔化した事も、全部。
だってあの日々に終わりが来るなんて思っとらんかった。
るきが僕の背中を撫でる中、きつくきつく抱き締める。
「………京さん、眠れませんか?」
さっきよりも覚醒したしっかりした声でるきが静かに問い掛ける。
寝入ったばっかで起こされたのに。
変な所で空気を読むな。
「……寝る」
「…おやすみなさい」
るきとの行為は虐め甲斐があって好きやで。
多少の無茶をしても意外と丈夫やし。
ドMで、淫乱。
やっぱるきにはタチは似合わんやろ。
いらん事考えんでえぇねん。
るきの癖に。
るきの身体を抱き締めたまま、目を閉じる。
僕の過去なんて無くなってしまえばえぇ。
終
20201119
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