蜘蛛の糸/京流+敏





自分の分の仕事は終わって、スタジオを後にする。
この後、個人的な打ち合わせが入ってるしどう時間を過ごそうかなって思いながら。

お疲れ〜と挨拶をする中、視界に入った京君は薫君と仕事の話をしてて。
その横顔は随分、昔とは違う。

もう、俺の知らない京君。


スタジオ出入口の扉を開けると風が吹いて寒くて肩を竦める。
何処かのカフェで時間潰そうかな、と思いながら歩いて行こうとすると、不意に視界に捕らえた人物。


壁に寄りかかって、スマホを弄ってる。
帽子とサングラスとマスクって言う、絶対わからないだろうなって格好で。
全身ほとんど黒とか、逆に目立つね。
俺も人の事言えねーけど。


何度か会った事あるし、背丈も似たような感じだし。

遠目から見てもわかる。


京君の恋人の、ルキ君。


「何してんのー?京君待ってるの?」
「…は?……ッ、敏弥さん。こんにちは」
「こんにちはー」


何か思うよりも身体が先に動いて、その人物の前まで歩いて声を掛ける。
人の気配を感じたのか、顔を上げたルキ君は、訝しげな声を出した後、認識したのか耳についてたワイヤレスイヤホンを耳から外して俺に頭を下げた。


本当ちっちゃい。
京君と同じぐらいか。


「すみません、気付かなくて」
「俺も今出て来た所だからねー。京君と待ち合わせ?」
「はい。俺の方が早く終わる予定だったんで…」
「そっかー。でも京君まだかかりそうだったよ」
「あ、そうなんですね。ありがとうございます」
「ここ寒くない?」
「そうなんですけど、ここが一番わかりやすいんで」
「あーそっか」


サングラスを外したルキ君が笑いながらスタジオ出入口の扉を見やる。

律儀だねー。


「それに、」
「ん?」
「ここって他のメンバーさんと会える時もあるんで」
「あー俺みたいに?」
「そうです。一番多いのは薫さんなんですけど」
「あはは。出待ちみたいだね」
「ですね」


まぁ元々この子ってバンドのファンって言われてたしねー。
時々ライブも来てるみたいだけど、楽屋に挨拶に来た事は一度も無い。

京君が嫌がってるんだろうね。


そんなにルキ君が大事なのかな?


「あ、でも他のメンバーと話したいなら、ルキ君も飲み会来ればいいじゃん。欠席って聞いたけど」
「あー、……駄目だって言われたんで……」
「京君に?」
「……はい」
「まぁ京君嫉妬深いしねー」
「えっ」
「ん?」
「そう、なん、ですか…?」
「え?心当たり無い?」
「特に…」


まぁこの子だったら盲目だし嫉妬する事も無いか。

相変わらず愛されたがりだねー。

まぁ半分嘘で、嫉妬と言うか、怖いんだろうね。
俺にルキ君を会わせるのが。

そんで、ルキ君は事情を何も知らないんだ。

そっかぁ。
まぁ、言えないよねー。


「ルキ君飲み会来ないの残念だな〜。京君とはまた違う唄の話とか聞いてみたい」
「俺も敏弥さんのベースの話聞きたいです」
「あ、じゃーLINE交換しよっか。空いてる時またご飯行こ」
「いいんですか?是非」


スマホを取り出すと、ルキ君もさっきズボンのポケットにしまったiPhoneを取り出す。
LINEを操作してルキ君を追加する。

純粋に、ただ嬉しそうにしてるルキ君を見てると、腹の底からどす黒いモヤが渦巻いてる感じ。


今の俺の顔は、怪しまれない、人のいい顔になってんのかな。


何も知らない、ルキ君。


「あ、でも俺とLINE交換した事、京君には内緒にしてね」
「え、言っちゃ駄目ですか?」
「うーん、俺が怒られるかなー」
「京さん怒ります?」
「怒る怒る。多分、ルキ君を見せたくないんだろうねー」
「……?何で…」
「だから、嫉妬深いんだって」
「そうなんですか…」
「折を見て俺から話すから、言わないで、ね?」
「……わかりました」


念を押すと、腑に落ちない顔をしながら素直に返事して。
まぁ俺の方が先輩だしねー。
縦社会な業界、反古する事は無いだろ。


「…あ、ごめん、打ち合わせあるんだった。お先に失礼するね」
「すみません、引き止めてしまって」
「俺も楽しかったしねー。じゃ、また連絡するから」
「お願いします」


スマホの時計を見ると、次の打ち合わせまでにちょうどいい時間。
会釈をするルキ君に手を振って、次の打ち合わせ場所へと歩き出す。


歩きながら画面に視線を落とすと、さっき交換したルキ君のLINE画面。


さぁ、どうやって遊ぼうかな。




20201109

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