同じ時間、同じ匂い/京流





夜、京さんと2人。
帰宅時間がバラバラだったからお互いどっかで飯食って帰って来て、リビングで各々好きな事をしている時。


俺はラグの上に座ってガラステーブルにパソコン置いて仕事したりして。
でももう目も疲れたしどうしよっかなーって伸びをして後ろのソファに座る京さんに顔を向ける。


そうしたら、不意に自分のパソコン観てた京さんがソファから立ち上がりソファ横に置いていた自分のカバンの中から煙草とライターを取り出した。

新しいパッケージの煙草で、ビニールを剥がして慣れた手付きで1本咥え、煙草に火を点けた。
その様子は、様になってて好き。

またソファに座って、煙を吐き出す。


「…京さん、煙草変えたんですか」
「あー…うん。色々吸ってみたけどこれに落ち着いたなぁ」
「俺にも下さい」
「勝手に吸うたら」
「…京さんが吸ってるの」
「……お前…何でも僕の欲しがるのどうかと思うで」


ソファに肘付いて見上げたら、京さんは呆れたように目を細めて。
溜め息を吐きながら煙を吐いた。

それでもたまに気紛れで甘やかしてくれたりするから、こんな風におねだりするのが止められ無い。

京さんは吸い始めたばっかの煙草を俺に差し出して、ありがとうございます、と受け取ると京さんは新しい煙草に手を伸ばした。

さっきまで吸ってた京さんの煙草を咥えて煙を吸い込む。
自分のとはまた違う味。

こう言うの好きなのか、京さん。

結構キツいなこれ。


「るき」
「あ、はい」


新しい煙草を咥えた京さんに指で招かれ、床に座ってたのを立ち上がり、京さんの隣のソファに座る。
そうしたら京さんの顔が近付いて来て、俺が貰った煙草の火で自分の煙草に火を点けた。

ジッと煙草が焼ける音をさせて、京さんが煙を吐きながら離れてく。


「…これ、ココナッツフレーバーなんすね」
「そー」
「そして重いですね」
「あーそうかもなぁ。るきも結構クセあるん吸うやろ」
「まぁ」
「でもこれ難点なんはコンビニに無い所やな」
「マジですか。買い溜めしなきゃですね」


近くに煙草屋があったら便利なんだけどなー。
まぁお互いよく煙草吸うから、また買いに行こ。


京さんと同じの吸ってるの、何かいい。


「これ黒いし、京さんに凄く似合いますね」
「そうなん」
「煙草吸ってるの格好良い」
「………」


何言ってんだこいつ、って目で見られた。
いつもの事だからいいけど。

本心だし。
いつも見慣れてる光景。
だけど、いつも格好良いなーって思って見てる。


ライターで火を点ける仕草とか。
細く長い指に挟まれた煙草とか。
煙を吐き出す時とか。

全部全部、好き。


ガラステーブルに置いたスカルの灰皿に手を伸ばして灰を落とす。


黒い煙草ってなかなか無いからインパクト強いな、これ。


「あー…」
「…何や」
「もう集中力切れたから寝ようかどうか迷ってます」
「ふーん。ほな寝たら」
「…京さんは?」
「風呂入って寝る」
「一緒に」
「……嫌言うても来るやん、お前」
「あはは」
「笑うとこちゃうから」


もうすぐ吸い終わるし灰皿持ってまた座り直して。
ちょっと京さんの肩に頭を乗せる。

振り払われないし、そのままで煙草吸ってると横から京さんの手が伸びて来て灰皿に灰を落とした。

京さん風呂入るなら俺も入ろ。


吸い終わった煙草を灰皿に押し付けて消して。
それでも、このまったりとした空間を手放すのが惜しいから、京さんに凭れたまま。


「…何やの。重い」
「あんまり会えないので、会った時にはくっつきたいです」
「ガキ」


鼻で笑って煙草を吸い終えた京さんは灰皿で揉み消した。
2人分の新しい黒い吸殻。


2人でいても、お互いの時間は大切で。
でもこうやって、2人の時間も大切。


そして何だかんだ、俺を甘やかす京さんが好き過ぎる。


吸殻捨てねーとなーって思いながら、ガラステーブルに灰皿を置く為にちょっと俺の身体が離れると。
そのまま京さんは立ち上がってしまった。

残念。


そう思ってると、京さんが振り返って。


「オラ、風呂行くで」
「えっ、いいんですか!」
「嫌なら無し」
「行きます…!」
「そー」


珍しく京さんから誘ってくれた。
いつも俺が特攻してるから。

嬉しい。


今日はそう言う日なんですか。

京さんも2人の時間を思ってくれてたらいいな。


「風呂でヤるからローション持ってき」
「…のぼせません?」
「後始末楽やん」
「あー確かに」


どうせすぐには終わんねーから、ローションと、水持ってこ。



20201103

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