その夜からの朝/京流+玲




いやもう二度と体験したくない事をした後。
ソファやらテーブルやら何か乱雑になってたり、色々汚れてたりしたのを拭いたり。

何で俺がこんな事してんだって思いながらやったんだけど。

でもこのソファで寝るしなぁ。


なんて思いながら、せっせと掃除していると風呂場の方から声が聞こえた。
多分、泣き声。


京さんとルキの会話で、何となくこうなった事情は察したけど。
まぁ、意外と聞こえる声に、そりゃ嫌がるよなぁ、とは思った。


もうシャワーはいいからさっさと寝ておきたい。
射精感に身体が重い。


京さんには忘れるっつったけど。
明日もルキと仕事だし、若干気まずい。

後悔しつつ、あの場面でどうすれば最良だったかなんて思い浮かばなかったから仕方無い。


スマホで時間を見て溜め息。

起きたら2人と顔合わせるんだよなー。
どうすっかな。

……気にしても仕方無いか。


そんな事を思いながら、毛布にくるまって身体を横たえる。
少しでも寝ておこう。
明日運転するしな。


















なんて事を考えて寝た、朝。


「あ、れいちゃん、おはよう。よく寝た?」
「…………おう」


キッチンからの生活音で脳が覚醒する。
瞬きして、スマホを見るともう朝。
やっぱあんまり寝られなかった。

身体を起こすと、キッチンにいたルキが話し掛けて来て。
ばっちり私服に着替えたルキが眼鏡を掛けて何か料理していた。

いい匂いがして来る。


あまりにも普通だったから、ちょっと拍子抜けして。
「ん″ー」と声を出しながら伸びをした。


「れいちゃん、スタジオ行く前に京さんのスタジオ寄れる?」
「あー大丈夫じゃね」
「よかった。……あ、京さんおはようございます」


リビングのドアが開いて、京さんが入って来た。
るきは姿を見ると嬉しそうに笑って。

若干、眠そうにしている京さんは、昨日の夜とは打って変わって雰囲気が柔らかい。

こっちの方が見慣れてるんだけど。


「おはようございます」
「……はようさん」
「京さん珈琲飲みます?」
「ん」
「れいちゃんは?」
「あー、貰うわ」
「了解。顔洗って来なね。タオル適当に使って」
「サンキュー」


ソファから降りて、洗面所へと向かう。
背中でルキの楽しそうに京さんに話し掛ける声を聞きながら。


「朝ご飯は昨日の鍋の出汁で作った雑炊ですよ〜」
「ふーん」
「蟹の出汁がいい感じです」
「昨日の蟹美味かったな」
「ですね〜。また食べましょうね」
「ん」


こう言うのが日常茶飯事なのか。

昨日の夜、風呂場で泣き声聞こえたけどその場で解決したのか。

普通に会話してる2人に、拍子抜けと、安堵。

やっぱルキが笑ってる方がいいから。
























「じゃぁ、京さん、また夜に」
「ん。れいた君もありがとうなぁ」
「いえ、こちらこそお邪魔しました」
「また来ぃや」
「……次は酒無しでお願いします」
「はは」


ルキと京さんを後部座席に乗せて、先に京さんのスタジオまで送り届ける。
降りた京さんに会釈をして、ルキは京さんの姿を見送って、見えなくなったら車のドアを閉めた。

ルキと2人きりになった車内。

取り敢えず、自分らのスタジオへと車を走らせる。


「………」
「………」
「………」
「………」
「……何か言えよ」
「…あー…眠いですね、ルキさん」
「…チッ」
「お前…京さんの前で猫被り過ぎだろ…」


特に会話無く無言でいたら、後ろにいたルキが口を開く。

気にしてねぇのかなーって思ってたけど、気にしてたらしい。
昨夜の事。

舌打ちが聞こえて、チラッとバックミラーでルキを見やる。
窓枠に肘付いて景色を見てるルキは不機嫌そう。


「何、謝ればいい訳?」
「はぁ?謝るぐらいだったら最初からすんな」
「だろうな」
「………」
「………」
「………まぁ、巻き込んだのこっち、だし」
「………」
「…悪かったな、とは思ってるよ」
「そっか」
「………」
「まぁ正直、驚いたけど…、昨日の事は京さんに忘れるっつったから」
「は、」
「だから、俺は何も覚えてねーの」
「何それ」


ボソボソとバツが悪そうに呟いて、ふっと笑ったルキ。


「いやだってお前気絶してたけど、京さんに『ルキに手を出すな』って釘刺されたし」
「え?京さんが?」
「そー。京さんが」
「京さんが…、そっか…」


多分、ルキに知られたくない言葉だったんだろうけど、ちょっとぐらいいいだろ。
現にルキは嬉しそうにしてるし。

本当、こいつは京さんの事になるとな。
それでいいのかよって事が多々ある。


ルキの恋人が京さんて知っててルキに手を出せる奴を見てみたい。

俺は絶対無理。


いくら夜の顔を見ても、やっぱ大切なメンバーには変わりねーし。


「で、」
「うん?」
「れいちゃんは良かったのかよ。俺の身体」
「おま、今の会話の後にそれ聞くのかよ」
「うん」
「…京さんの好みなんだろうなーとは思った」
「は?」
「良かった、けど。他の男の影がチラつく身体」
「あぁ…れいちゃんSだもんね」
「そうそう。けど、京さんのが凄ぇわ。人格変わるのが」
「格好良いでしょ」
「……ハイハイ、ソウデスネー」
「ヤってる時の京さんは俺だけが見てたのに」
「えー」


何言ってんだこいつ。
めんどくせぇ。

本当に面倒臭いカップルだな。


まぁ昨夜の事でギクシャクするよりかは全然いいけど。

取り敢えず眠い。


「けど、京さんてれいちゃんの事気に入ってるよなー」
「あー?そうかー?」
「そー。何で?」
「いや、俺が聞きてぇよ…ルキと仲良いからじゃね?」
「ん?どう言う事?」
「恋人の親友って仲良くしねぇ?」
「あぁ〜なるほど」


親友の恋人に気に入られるのはいいけど、ちょっとは手加減してくれませんかね、京さん。




20201030

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