気紛れな戯れ/京流




何年もるきと暮らしとったから、るきがお喋りなんはわかっとるし。
とりとめの無い話をダラダラするのが好きやから、情事後でも自分の話したい事があると脈絡無く話し出す。

息が整ったるきは今日のスタジオでの事、何があったとかこうだったとかを話しながら俯せで肘で身体を起こして他愛無い事を喋る。
毎回毎回、思い切り鳴いて少しだけ掠れた低音の声が慣れてしまえば心地いい。

仰向けで枕に頭を預けてる僕の顔と顔が向かい合うようにして。

飯食った時も喋っとったけど、まだ喋る事あるんかお前。
逆に関心するわ。

つーか、今何時…。

手探りでベッド脇のサイドボードに手を伸ばして自分のスマホを手に取ると時間を確認する。
えぇ感じの深夜。
ヤッて疲れたし寝たい。


「で、今日スタジオでれいたと蟹食いてぇって話してたんですよ。蟹通販してもいいですか?蟹鍋したいです」
「あー…別にえぇよ」
「やった。れいた呼んでも?」
「えぇよ」
「マジですか。有難う御座います。またれいたに言っておきます」
「んー」


ラインとか仕事の話が無いかチェックしながら返事をする。
るきの仕事仲間兼友人のれいた君。
一番話にも出て来るし、多分るきのメンバーの中で一番会う気がする。

まぁこの家には人を招くな、とは言うてないけど暗黙の了解みたいなんがあって。
勝手に入られるんは気分えぇもんちゃうから。

るきもそれを知っとって聞いて来るんやろけど。
れいた君は何回か入っとるし特に気にならん。
あいつ礼儀とか弁えとるし。


「………京さーん」
「……なん。重いんやけど」


スマホ弄りながら気もそぞろにるきの話を聞いとったら、それを不満に思ったんかるきが身体を起こして仰向けに寝る僕の身体に跨がって来た。


最近のるきには遠慮が無い。


お互い素肌のままで、腰辺りにるきが乗って来とって。
構ってちゃん過ぎるやろこいつ。


いつもとは違う、るきが僕を見下ろしとる格好。

スマホをシーツに投げて、どうするんかなって思ってじっとるきの顔を見つめると。
るきの上半身がゆっくり近付いて来て、僕が拒否らんのを確認すると啄むだけのキスをしてきた。
間近のるきの顔をじっと見ると、少し戸惑ったように瞳が揺れる。


「…何かいつもと違う…」
「やろな」
「どうしたんですか」
「どうもせんで。るきがどうしたいん?」
「俺は、」
「……」
「京さんの身体、格好いいな、って」
「…そー」

身体を倒したまま、片手で支えてもう片手のるきの増えまくった刺青が入っとる腕が、僕の身体の上をなぞる。
僕も大概、人の事は言えへんけど。


そのスイッチの切り替えは何なん。
さっきまで情事とは関係無い話ばっかしよったやん。
何処までやってえぇのか、戸惑いと、確かめるように僕の胸、肩、首と刺青をなぞってくその手。


拙い。
そう言えば、るきが主導で僕に何かするって滅多に無い気がする。


「……京さんが大人しいと、怖いんですけど」
「何やの、せっかくのチャンスやで」
「…何のですか」
「いつのも仕返し。仕留める」
「…ッ、」


僕が自分の首を親指で横になぞると、るきはより一層戸惑った表情になった。

首をなぞったるきの手は微かに震えて。

そのるきを見て、僕の顔は楽しそうに笑っとるんがわかる。


あー、かわえぇな、このドM。


るきがするのと、僕がさせるのでは全然違う。








「アカンなぁ、るきは」
「きょ、…ッ」
「すぐ仕留めな、返り討ちに遭うで?」
「あ…ッ、っ!」


るきの手首を掴んで、そのまま僕の横へ引き倒す。
バランスを崩したるきはされるがまま、シーツに身を沈めて。

僕は反動で起き上がり、そのままるきに馬乗りになると躊躇い無くるきの首に手をかける。
軽く締めると、るきの手が僕の手首を掴んだ。

でも、セックスの延長でも無いから、すぐに手を離すと。
息を思い切り吸い込んだるきが身体を起こした。


「な、に、するんですか…っ」
「んー?どないするか見てみたかったんやけど」
「だって、いきなり…!」
「いきなりや無くても、るきには出来んやろ?」
「…ッ、」


下唇を噛むるきを見下ろして、眠気がばっちり覚めた僕の番。


真面目に話聞いて欲しかったんやろ?


こいつがお喋りなんは、口だけやないから。




20201005

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