今年のホワイトデー/京流




毎年毎年、いい加減飽きへんのかこっちが忘れとるのに、るきは律儀に覚えとるホワイトデー。
バレンタインに僕はあげた記憶ないけど。
るきから貰った記憶ならある。

ホワイトデーは貰ったヤツがお返しする日やなかったっけ?ってるきが何かしら用意する度に思うんやけど、本人は気にしてないらしくて、毎年どうにかしてくる。

もうネタとかどうでもえぇから、普通にしてくれって思う。
寧ろ言われるわで忘れとるから、そのままスルーしてくれてもいいんやけど。


とか思いながら、バレンタインしかり、ホワイトデーにはスタジオにチョコ系統のお菓子が並んだりするから、否応にもその日は自覚するんやけど。


まぁでも、今日はお互いの仕事終わりが重なったし、外で飯食って帰るかって事になったから何をするでもないやろ、と思っとったけど。


「あ、京さん、今日ホワイトデーなんでホワイトチョコフォンデュありますよ。せっかくなんで、これも頼みますね」
「………」


待ち合わせをして、るきが知っとる個室がある創作居酒屋みたいな所に入って。
飲み物を注文してからパラパラと食事メニューを見とると、るきが余計なモンを見つけて余計な事を言うて来た。
この時期、店はイベントに託つけて何でもやり過ぎやろ。
そのイベント商法にまんまと引っ掛かるるきは何やねん。


「京さん食べたいの決まりました?」
「…これと、これ。後これも」
「わかりました。注文しますね」


自分が食べたいと思ったモンを差して、るきが店員をボタンで呼ぶ。

店員が注文を聞きに来ると同時に、最初に頼んだ飲み物が届く。
グラスビールとカシオレ。

うわ、ホンマにチョコフォンデュ頼みよった。

るきが店員とのやり取りを終えると、僕の方に向き直って自分が頼んだカシオレのグラスを取り、こっちに寄せる。


「京さん、仕事お疲れ様です」
「お疲れ」


僕も自分のグラスを持ち、るきのグラスと合わせる。
この後は帰るだけやし、グッとビールを煽るとひと口飲む。


るきもひと口飲んでから、今日の仕事はどうだったとか、よく喋る。
ほぼ毎日会っとるのに、何をそんな喋る事あるんやって程。
もう慣れたけど。

こっちも相槌打ったり話したりしながら、少しずつビールを飲みよると注文した料理が運ばれて来た。
今日は平日やし、そこまで待たされんのはえぇな。
あんま曜日感覚ないから、うっかり土日に出掛けてもうたら地獄やったし。


るきと僕がチョイスした料理が並べられて、いただきます、と言いながら適当に取り皿に取る。
創作居酒屋って聞いただけあって、彩りは綺麗だったり、丁寧に盛り付けてあったり。
るき好みなんやろなってわかる。


「ここ、前に打ち上げで連れて来て貰って、料理も美味しかったし、京さんと来たいなって思ってたんですよね」
「ふーん。…まぁ、確かに美味いな」
「ですよね。よかった」
「なかなか新規開拓せぇへんしなぁ」
「自分では新しい店入らないですよね。知ってる店になるって言うか」
「東京は店ありすぎんねん」
「口コミもあてに出来ないですしね〜。あ、これ美味しい」


るきは機嫌良く笑いながら少しずつ料理を口にしていく。
まぁ、誰かに教えて貰ったとか、自分が当たりやと思った店に行くから、あんまハズレた事はないな、とは思う。
どうせ食べるなら美味い所がえぇし。

そんな会話をしながら、また料理が運ばれて来た。
忘れとった。
これ頼んだん。


「うわ〜本当にホワイトチョコなんですね。すっげ甘い匂い」
「お前…これは飯ちゃうやろ」


こんな会話、毎年のように繰り返す気がする。

チーズフォンデュを入れるであろう鍋みたいな器に、白い甘い匂いのチョコレートと。
パンだのマシュマロだの、ホワイトチョコに合わせた食材も一緒に運ばれて来た。


「チョコレートファウンテンでなくても、これだと後片付け楽そうですよね」
「いや、普通飯の時間にチョコ食わんから。せんかったらえぇんちゃう」
「だってせっかくのホワイトデーだし」
「何がせっかくなん」
「イベント事は大事にしたいですよね!」
「忘れとけ」
「あはは。京さんと一緒だから大事にしたいだけなんで。だから俺の我儘に付き合って下さい」
「はぁ。これデザートなんちゃう」
「甘そうですもんね〜」


器の下で温めとるから、チョコは固まらんっぽいけど。
試しにパンを取って、ホワイトチョコに浸けて食べてみた。

うん、やっぱ甘い。
飯時に食べるモンやない。

まだ救いなんは、家ではないから、甘いモンオンリーで攻めて来てないって事や。
家では、るきはこれしか作りよらんからな。


「ホワイトチョコって普通のチョコより甘い気がしません?」
「…全部食ったら胸焼けしそう」
「こう言うのチーズフォンデュが美味しいですよね」
「ならチーズフォンデュ頼めや」
「こう言うのはノリで」
「はぁ?」
「今年は時間無くて、ホワイトデーどうしようかなって思ってたんで」
「スルーしたらえぇやん」
「嫌です」
「何なん…」
「誰と過ごすイベントか、が重要なんで。京さんといるのにスルーはしません」
「お前…頑固やな…」
「今知りました?」
「前から知っとるわ」


ウザい程な。

ですよね、と笑うるきは、マシュマロにホワイトチョコをつけて食べて、カシオレに合わねぇ…と言うとった。

諦めか許容か。

それでも毎年、一緒に過ごすって事は、そう言う事なんやろな。




20180314


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