16周年と日常と/京流




僕の方が先に仕事から帰って。
スタッフとメンバー達と飲みに行く、とるきから連絡は入っとったから誰もおらん真っ暗な部屋の電気のスイッチを押す。
そうしたら、るきの趣味全開のリビングがパッと明るく映し出された。
もう何回目かわからん模様替えを経て、今はこのインテリアで落ち着いて長い。
どうせあいつの事やから、気になるモンがあったら買って来てまた替えるやろけど。

家主が誰もおらんかった部屋は少し肌寒い。
エアコンのスイッチを入れ、ついでに加湿器も。

息を吐いて、荷物を床に下ろしてソファに座る。
身体を預けて背凭れに凭れると、その場から動くのが億劫になった。

るきも遅い言うし、誘われて居酒屋で少し飲んで来たけど。
連日仕事に追われた身体にアルコールは思いの外染み渡った。

時計を確認すれば午前0時を回る前。
これから湯を溜めて風呂に入る気力は無いから、シャワーだけ浴びてさっさと寝よう。
るきがおったら湯船に浸かれ煩いけど、そんなあいつも今はおらんし。


そんな事を思いながら、面倒で動かす気の無い身体を預けたまま、自分の呼吸音と時計の針の音だけが響く室内でソファに身を沈めてこのまま寝そうになる。

風邪引いたらヤバいから起きなアカン、そんな事を思いながら、いつ身体を動かそうかと思っとったらガチャガチャと玄関から物音が聞こえた。
タイミングがえぇのか悪いのか。
何やもう帰って来たんかあいつ。


「京さん、ただいまです」
「…おー、おかえり」
「寝てます?ソファで寝たら風邪引きますよ〜」
「わかっとるわ、いちいち煩い」


廊下を歩く音がして、リビングの扉が開くと同時にいつもよりかは若干浮かれた声色のるきが入って来た。
ソファの背凭れに頭を預けたまま、そっちに視線をやれば、サングラスしとるから表情はよくわからんけど飲みが楽しかったんか嬉しそうな感じやった。
酒も入っとんやろな、と思うとちょっと面倒。

テンション高いるきは、特に。


「よいしょ、っと」
「オイコラ、狭いんやけど」
「まぁまぁ、いいじゃないですか」
「よくないわデブ」
「最近は太ってないでーす」
「はぁ…」


やっぱり酒の入ったるきはテンション高くてウザい。
ソファは広いのに、僕と肘掛けの間の隙間に無理矢理身体を捩じ込んで座って来た。
途端、居酒屋特有と料理と煙草の混じった匂いが鼻をつく。
避けようとする僕の腕を掴んで、そのまま擦り寄って来ても可愛いないからな、お前。

外したサングラスをテーブルに置いたら、アルコールを含んだ独特の涙目に目が赤い。
弱い癖に、いっちょまえに飲むからやで。

密着したまま、るきは僕の腕に頭を預ける形で、ふわふわとした口調で何か喋り始めた。


「今日でバンド結成16周年なんです。だからメンバーとスタッフ達とお祝いとして飲みに行って、」
「………」
「色んな人に祝って貰って、ここまで続けて来れてよかったなーって」
「そうか」


もうそんな時期か。
何となく、歪な関係から始まったるきとの同居生活は、いつの間にか一緒の空間におって。
やから、カウントして来た訳ではないけど、毎年の様に、自分のバンドの周期を律儀に報告して来るるきに、毎年何となく、そんな時期になったんやな、と思う。
何も無かった訳やないけど、1年が早く感じる。


「そして、そんな日に、京さんと一緒に居られるのも嬉しいです」
「ふーん」
「京さん聞いてます!?」
「聞いとる聞いとる。耳元が騒ぐなや」
「もう。それでですね、」


次々と何をそんな喋る事があるん、と思う。
るきは何でも僕に報告してきよるから。
元々お喋りではあるらしい。


「はいはい、おめでとさん。僕もう眠いから、シャワー浴びて寝るわ」


話は終わり、と僕の腕に巻き付く手を外す。
こいつに喋らせとったら朝になってまう。
僕は寝る。


「えっ、京さんシャワーだけとか身体温まらないんでお湯溜めますよ。風邪引いたら困りますからね!」
「えぇって、めんどい」
「駄目です。せっかくなんで、俺も一緒に入りますね!」
「何がせっかくなん…」
「ちょっと待ってて下さいね〜」


そう言うとるきは立ち上がって風呂場へと消えてった。
半身にあった人の温かさが無くなって、風呂場で何かガタガタしよる音が微かに聞こえて来る。


16周年、なぁ…。


今まで、その報告を何回聞いたやろか。
それほど、るきとの生活が長くなっていく証拠で。
当たり前になってしもた日常が、何とも言い難い気持ちになる。


この日常が、当たり前になる事が。


「京さーん、お水飲みます?」
「おー」
「あ、ペリエそろそろ買わなきゃ…仕事詰まっててなかなか買い物行けねーんだよなぁ…」
「……」


るきが冷蔵庫を開けてぶつぶつ言いながらグラスに氷とミネラルウォーターを注ぐ。
それを2つ持って来て、また僕の隣に座った。
グラスを受け取ると、氷がカラン、と音が鳴る。


「京さん、また買い物行きましょうよ。日用品買いたいです」
「1人で行けば」
「1人じゃ持ち帰れないじゃないですか」
「2人しかおらんのに、どんだけ買う気なん…」
「あんまり行く暇無いんで、買い溜めたいです」
「めんど…」
「いいじゃないですか。ね」
「……」


冷たい水を喉に流し込んで、ゴリ押しするるきに何言うても無理やと思って無視をする。
それでも諦めへんるきはゴチャゴチャ話し掛けて来るんやけど。

何でこうなった。

このるきの趣味が入った部屋も。
当たり前の生活も。
僕の隣におるのに、違和感がないるきの事も。


悪い気は、せぇへんけど。





20180310


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