甘いバレンタインデー/敏京
「さて、京君、今日はバレンタインデーですね」
「ソーデスカ」
「チョコはいつくれるのかな?」
「知らん」
「まぁ、そんな事だろうと思ってたよ」
「…………」
仕事帰りに敏弥んちに来て。
飯食ってゲームして、敏弥と過ごしとったら。
何や敏弥が改まって言うて来た。
バレンタインか。
知っとったけど。
何かスタッフからも貰ったし。
帰りにコンビニで買ったお菓子を食べながら、敏弥を一瞥する。
ニコニコしとる敏弥。
毎年、バレンタインの時の敏弥はロクな事言い出さんからな。
「大丈夫、ちゃんと俺が用意したからね!」
「チョコ?何くれるん?」
「ちがーう。京君から俺に貰うの!今年はねぇ…これを用意しました!」
「…………」
立ち上がってキッチン行ったと思ったら、ボールを持って来た。
嫌な予感しかせぇへん。
じゃーん、と僕の目の前に何かを差し出して来た。
何か…ペンみたいな。
「これ。チョコペン!」
「何それ。食べにくそう」
「これで京君の身体に文字を書いて舐めたいと思います!」
「……………」
「じゃ、京君脱いで」
「……嫌やしフザけんな死ね変態」
「チョコかけるよりかは汚れないよ!」
「そう言う問題ちゃうわボケ!!死ね!!ホンマ…、ちょ、寄るな!」
「はい、逃げないでー」
後退るけど、狭い部屋ん中。
すぐ敏弥に掴まって引き戻される。
細い癖に何やねんその力!!
「じゃー腕!腕に書かせて!お願い!腕なら大丈夫だよね!?」
「嫌や。何でそんな必死なん引く」
「京君からのチョコ欲しい!京君が欲しい!下さい!!」
「嫌。キモい」
「……そっか」
「…………」
掴んどった腕を離して、敏弥が残念な表情をして離れた。
あからさまにガッカリした雰囲気で。
さっきのテンションの落差に拍子抜けして、息を吐く所か、息が詰まる。
何やねん、敏弥の癖に。
僕は悪ないのに。
「あ"ーもう。腕だけやで!」
「うん!だから京君愛してる!」
「……この野郎」
やっぱ死ね。
さっきと打って変わって、嬉しそうな顔でニッコリと。
腹立つ笑顔やな。
「腕捲ってー」
「…………」
「これね、湯煎でチョコ溶かしてペンみたいに文字書くヤツなんだよー」
「絶対用途ちゃうやろ」
「でもホラ、文字は身体に書いちゃダメとか決まってないじゃん?」
「こんなん思い付くん変態ぐらいやで」
「それ程でも」
「褒めてへんから」
敏弥は水を張ったボールの中から、チョコペンを取り出すと、先端をハサミで切った。
もうえぇわってヤケクソで腕捲って敏弥の方に差し出しすと、敏弥は手を取って腕の内側にチョコを落とす。
「熱くない?」
「平気」
そっか、って笑って、僕の腕を見ながら真剣に文字を書いてく。
『きょうくんすき』
書かれた文字はそんなん。
「じゃ、いただきまーす」
「ホンマ舐めるんか」
「うん」
何プレイ、これ。
敏弥が自分で文字書いた僕の腕を、舐める。
敏弥の舌がゆっくりと僕の皮膚を這った。
「甘ーい」
「甘いんあんま食べへん癖に」
「京君チョコだったら全然平気!」
「ふーん、アホやな」
何か、そんな雰囲気ちゃうのに身体舐められるとか変な感じや。
舐める様子を、じっと見つめる。
ゆっくりと舐め取った敏弥は、綺麗になった腕の皮膚に吸い付く。
「……チョコ無いで」
「チョコ無きゃダメなの?」
「お前が言い出した事やろ…」
目を細めて笑う敏弥に腕を引かれて、抵抗せずに敏弥の身体に引き寄せられる。
そのままキスされると、敏弥の唇からはチョコの味が微かにした。
「俺が我儘言ってもね、結局聞いてくれちゃう京君が好き」
「ふーん」
「何だかんだ、優しいもんねー京君は」
「気の所為」
「またまたー」
唇から頬、首筋に敏弥がキスして来て。
片手が僕の服に手が掛かる。
変態な事言うとった癖に。
優しい手付きに目を瞑って享受する。
上半身の服を脱がされて、床に押し倒される。
何度も軽いキスをして来る敏弥の首に腕を回す。
「…ね、身体にも書いていーい?」
「……もー何でもえぇよ、変態」
結局変態か、お前は。
嬉しそうに笑った敏弥の顔を見上げて、心の中で溜め息を吐く。
こんな事してやるん、今日だけやからな。
僕を存分に味わいやがれ。
「こんな甘い京君は、俺だけにしてね」
「……っ、知らん」
敏弥以外、誰がこんな事するんや、ボケ。
ホンマ、僕は敏弥に甘いわ。
ゲロ吐く程。
お前、バレンタインなんやから、後で僕にも寄越せや。
終
20150214
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