愛、欲、戯れA/京流+玲
れいたとカラオケに来て何時間か経って。
時々メールしてた京さんから『仕事終わった』ってメールが入る。
「れいちゃん!帰ろ!車出して京さんのスタジオ!」
「え、うん。もういいのかよ」
「うん、満足したし京さん仕事終わったって言うから」
「ふーん。別に迎えに行くのはいいけど、場所知らねーよ?」
「案内するし。××だから」
「あぁ、なら近いかもなー」
歌い終わって、帰り支度をしてから部屋を出る。
会計をして車に乗り込んで、京さんに今から行くんで待ってて下さいってメールをすると。
『ほな早よ来い』って返されたから『俺も早く会いたいです』って返したら『キモい』って返って来た。
京さん俺に対してキモいって言い過ぎじゃね?
ちょこちょこやり取りをして、車の中から窓を眺める。
時刻は夕方。
夏前だから、まだ外は明るい。
「つーか、俺が迎えに行くって知ってんの?」
「うん、メールしたから。仕事終わったら京さんも来て下さいって言ったけど断られた」
「お前何時間カラオケに居座る気だよ…」
「だってまだDIRも全曲歌ってねーし」
「いや、全曲歌うの義務じゃねーから」
笑ってハンドルを握るれいたの顔を見て。
そう言えば、俺がれいたと仲良いの知ってるからか、京さんにしては珍しくテリトリーに入れてるなって思う。
俺は京さんの仲良い後輩とか、やっぱ嫉妬したりするから。
そう考えると、京さんは大人なんだなって、思う部分と、ちょっとは嫉妬して欲しいって思う部分があるんだけど。
「あ、もうすぐだから連絡しとこ」
「マジ?京さん久々に会うし緊張すんな」
考え事をしてたら、見慣れた景色になって来て。
iPhoneを取り出して京さんの番号を呼び出す。
「大丈夫だって。…あ、京さん、もうすぐ着きます」
『遅い』
「すみません、少し道路の方へ出て来て貰っていいですか?」
『……何処』
「スタジオの近くの大通りの…、あ、れいちゃん、そこ停めて」
「ん」
『…あぁ、見つけたわ、車』
「あ、ホントですか?よかった」
道路脇に車を停めて貰って、助手席から降りると。
朝送り出した時の格好の京さんがこっちに向かって歩いて来てた。
「京さん、お疲れ様です」
「おー、お前下らんメール送って来んなや」
「せっかくカラオケで京さん見たんで」
「チッ。こいつにだけ情報行かんようにならんかな」
「調べまくりますよー」
サングラス越しにしか、京さんの表情はわからないけれど。
文句を言いながら後部座席のドアを開けると、京さんが先に乗り込む。
後から京さんの隣に乗り込んで座る。
「京さん、こんばんは。お久しぶりです」
「あぁ、こんばんは」
「ルキがお世話になってます」
「ホンマにな。お前らバンド、コイツの事甘やかし過ぎちゃう」
「…否定はしません」
「ちょっと、何の話してるんですか!れいちゃん、車出して」
「おう。家でいいの?」
「その近くのいつものスーパー」
「了解」
れいたが振り返って京さんに挨拶してから、車を発進させた。
サングラスを外して胸元に掛け、足を組んで背もたれに凭れる京さんが一息吐く。
「京さん、今日の夕食、れいたも一緒にいいですか?」
「えぇんちゃう。今日なに」
「まだ決めて無いんですけど、3人でってなったら鍋系のがいいですか?暑いんで鍋は微妙ですかね」
「すき焼き」
「あ、それいいですね!じゃ、夜ご飯はすき焼きにします」
「ん」
「れいちゃん、すき焼きでいい?」
「いーよ。ルキ作れんの」
「おっまえ、俺のすき焼きナメんなよ」
「何だそれ」
吹き出したれいたの肩を軽く叩いてから、後部座席のシートに深く座り込む。
今日、つっても、朝京さんを送り出してから掃除と洗濯と、後はカラオケにしか行ってねーんだけど。
そのカラオケの感想を京さんに話すと、すっげぇ嫌そうに眉をしかめた。
「喋ってる京さん、格好良かったです」
「………」
「ムービー撮って来たんですよー」
「見せんでえぇし。消せや」
「消しませんよ!消えたらまた撮りに行きます」
「…死ね」
「嫌でーす」
「…お前のハメ撮りバラすで」
「ちょ、京さん!れいたいるのに何言ってるんですか!」
「新しく撮るか。るきも撮って来た事やし」
「いやいやいや。やめて下さい」
本当に。
実際、京さんに何回かムービー撮られた事あるんだけど、俺自身はそんなの恥ずかしくて見れねーし。
「京さんが携帯無くしたら俺死ねる…」
「どっかのアホと違って無くさんわ」
「俺ももう無くしてませんから」
「当たり前やろ」
そんなやり取りをしている内に、家から近いスーパーに着いて駐車場に車が停まった。
「ここでいいんだよな?」
「ん、れいちゃんありがと。ついでに米持って」
「お前…俺は米係かよ」
「うん。そんな重いの持てねーもん」
「ルキはマイクより重いの持てねーもんなー」
「どこの姫だよ」
「ウチのバンドの我儘姫だろ」
「意味わかんねーし。京さんも行きません?」
「………ん」
「何か補充するのありましたっけ」
「知らん」
「あー。歯みがき粉切れそうなんですよね」
3人が車内から出て、スーパー入り口に向かう。
あんまりスーパーって男数人で来てるとかはねーから、目立つんだけど。
でも、京さんと一緒にスーパー行くとかはあんまりねーし、珍しいからちょっとテンション上がる。
カートに籠を乗せて、店内を歩く。
「すき焼きって、何入れますかね」
「肉」
「京さん、先に野菜入れて下さい」
「何でもえぇやろ」
「良くないですよ。取り敢えず白菜ですよね」
「ルキ、やっぱ肉だけで良くね?」
「ちっとも良くねーよ。お前は野菜食えっつの」
「無理無理」
「チッ。野菜食わねー癖に筋肉ばっか付きやがって」
「ルキも付ければいいじゃん」
「付かねーの!」
「あーはいはい。って、ルキお前どんだけ野菜入れる気だよ」
「このぐらい普通だろ」
すき焼きの具材を選ぶ横から口出しして来るれいたと話しながら野菜をカゴに入れていく。
男3人いるなら普通に食えるだろ。
「あ、玉子安い。京さん、暫くは自宅でご飯食べますよね?」
「んー」
「1人1パックか…3人いるから、」
「いらんから。そんな玉子ばっか食わんやろ」
「えー」
「えー、やないし。お前いつも買い溜めしすぎやねん」
「じゃ、2パックだけ…」
「…………」
「ルキ、2人暮らしに2パックいんの?」
「……茶碗蒸しかプリン作るし」
「作れんの!?」
「だから、俺の腕前舐めんなよって」
「時々ぶっ飛んだモン作って来るけどな、コイツ」
「やー、初めて作る物って失敗する時ありますよねー」
「失敗してんじゃん」
「煩いよ、れいた」
玉子を入れて、後は肉かなーって思いながら精肉コーナーへ。
牛肉、牛肉…。
「京さん、これでいい?」
「あんま脂っこくないヤツ」
「んー。じゃ、こっちも買おうかな…」
「で、美味いヤツ」
「…肉屋行きます?」
「嫌やめんどい」
「…じゃ、これにします」
これだけあれば、3人分になるかな。
色々選んで適当に見て回ると、飽きたのか京さんが何処かへ行った。
たまにしか一緒にスーパー行かないけど、京さんがスーパーにいるとか未だに不思議な感じ。
コンビニはよく行ってんだけどなー。
「…何か京さんをスーパーで見ると変な感じすんだけど」
「あ、れいたも?俺も」
「ルキはよく行ってんじゃねーの」
「いや、さすがに一緒にスーパーはなかなか行かねーよ」
「ふーん。まぁ確かに、俺も一緒には行かねーわ」
「え、よく来てんじゃん」
「それはお前が米買うからだろ」
「あはは」
れいたと話しながら歩いてると、京さんの姿を発見。
手に持ってる缶ビールと烏龍茶をカゴに入れた。
「京さん飲むなら俺も何か買おうかなー。れいちゃんは?」
「や、俺車だし」
「コーラ?」
「うん」
「取り敢えず、酎ハイ何本か買っとこ。京さんアイス買いますか?」
「うん」
「うわ、ガリガリ君のナポリタン味って、ちょ、京さんコレ食べたくないですか!?」
「いらん。変なん買うな」
「コンポタ味とか、冒険しますねー。ハーゲンダッツも野菜味とかあるし」
「…買ったらお前の口に捩じ込んだるからな」
「……じゃ、ノーマルなの買います」
コーラと、甘そうな酎ハイを何本か選んで、箱に入ったアイスをカゴに入れる。
後は歯磨き粉と米かな。
「京さん、他に欲しいの無いですか」
「あー、うん」
「れいたは?」
「無いかなー」
「じゃ、帰ろっか」
京さんは最後にじゃがりこの新作をカゴに入れて。
そのまま、スーパーの出口まで歩いて先に外に出て行った。
いつもの歯磨き粉を入れて、レジ近くの米を選ぶ。
「れーいちゃん、コレ持って」
「はいはい。…京さんに頼めばいいだろ」
「だって、お互い車ねーから、重いじゃん」
「別にいいけどよ…お前、京さんの前だと猫被ってるよな」
「そっかー?」
「そうだろ。一緒に暮らしてて疲れねーの?」
「んー。あんま考えた事ねーかな。何だかんだ、京さん優しいし」
「へー」
「それに京さんに我儘言ったら何されるか」
「あぁー、怒られんの?」
「怒られ、る…とも違う気がするかな?」
始まりが始まりだし、先輩後輩だから。
京さんに強くは言えないかなー。
惚れた弱みってのもあって、京さんだからってのもあるんだけど。
「まぁ、ルキがいいならいいけど。ってか、俺いていいの?京さんあんま喋んねーし…」
「普段から京さんそんな喋んねーよ?喋る時は喋るけど」
「そっか。ならいいけどさ」
「うん。あ、れいちゃん、いーよ、俺払うから」
「え、でも、」
「食費担当俺だからね。運転してもらうし」
「サンキュ」
「その代わり野菜食えよ」
「遠慮シマス」
レジを通して、お金を払って袋に全部詰めて。
ほとんどをれいたに持って貰って外に出ると、れいたの車の脇に立って煙草を吸ってて。
「京さんお待たせしました」
「ん。腹減ったんやけど」
「帰ってすぐ作るんで」
「早よーな」
「はーい」
携帯煙草に吸ってた煙草を入れて。
またれいたの車に乗り込む。
「じゃ、れいちゃん、宜しくね」
「はいはい」
れいたに声を掛けて、窓の外を見る京さんに少し寄る。
京さんと2人きりもいいけど、こう言うのも楽しいなって。
京さんもそうだといいな。
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