エゴ/京流+玲
昼前に起きてカーテンを開けると、気持ちいいぐらいの快晴で。
オフでする事もねーし、今日はどうしようかと思いながら冷蔵庫を開けてライフガードを取り出す。
その時、自分の携帯が鳴った。
着信はルキ。
「おー」
『れいたー何してんの?』
「何も」
『ははっ、お前誕生日なのに寂しい奴だな!』
「うるせーよ」
『って事で、今日が誕生日のれいたにプレゼント買ってやるよ。買い物行こうぜ。あ、あんま高いモンはダメだかんな!今から1時間後に俺んち迎えに来て。それじゃ』
「あ、おい、ルキ、」
一方的に言ったルキが、電話を切る。
まぁいいか。
オフの時にルキと遊ぶのとか久々だし。
ルキんちまで、20分ぐらいあれば大丈夫だな。
そんな事が、朝にあった筈なのにな。
来慣れたルキの部屋のドアの前。
ドアに背を預けて座り込みながら、煙草を吸ってぼーっと空を見上げる。
家を出る直前、ルキからのメールで『やっぱり無理。御免』ってメールが来て。
それで、何があったかは察しが付いたんだけど。
わかってて『どうした?』ってメール返しても『御免』としか返って来なかった。
せっかく誕生日プレゼント買ってくれるっつったのに、そりゃねーだろ、ルキさんよー。
煙を吐き出して携帯灰皿に煙草を落とす。
コンビニで買った物が入ってるビニール袋を下げて、ルキの家の前で待ってる俺は不振人物に見えねーかな。
まぁ、いっか。
多分、今日は俺んちに来ないだろうから。
あぁ、こんな晴れてんのにな。
ルキ。
今日は、殴られてないといいな。
どれぐらい待ったか。
携帯灰皿ん中も溜まって、暇だなーって思ってたら足音が聞こえて来た。
顔を上げるとサングラスを掛けたルキがフラフラと歩いて来て。
多分、俺の姿を認識したんだろう。
一瞬、ルキの動きが止まる。
「…れ、いた」
「おせーよ、ルキ」
立ち上がって、ルキに笑いかけると、ルキは俯いて。
「…何で、」
「ルキさんが祝ってくれねーと俺が寂しい誕生日のまま終わるだろーが」
「…御免」
「いいから部屋入れて。プリン買って来たし。一緒に食べようぜ」
「………」
ルキは何も言わないままこっちに来て、鍵を取り出してドアを開けた。
俺の横を過ぎる時に見えた、ルキの唇の端が赤くなってんのが見えて。
何か言いたくなるのを、ぐっと堪える。
勝手知ったるルキの部屋。
けど、綺麗好きのルキの筈が、部屋は少し荒れていた。
「………適当に座って。俺シャワー浴びて来るから」
「おう、冷蔵庫にプリン入れていー?」
「うん」
ルキが風呂場に消えてって、冷蔵庫を開けて常温で温くなった2人分のプリンと飲み物を入れる。
適当に座って、ルキが風呂場から出て来るのを待ってると、シャワーを浴びて部屋着に着替えたルキが出て来て、そのまま俺をスルーして、ベッドに入ってった。
そんな彼を目で追って。
勝手に洗面所に行って適当にタオルを取り出して水に濡らして絞る。
「…ルキ、顔腫れるから冷そうぜ」
「…何でいんの」
「そりゃールキに誕生日祝って欲しかったから?」
「今日無理って言ったじゃん」
「でもまだ時間は残ってんだろ。ほら、顔こっち向けよ」
「…やだ」
「嫌じゃねーって」
「ッ、や、」
ルキの肩を掴んで、無理矢理自分に向かせるとルキは両腕で顔を覆う。
その仕草に一瞬躊躇うけど「悪い」って言って優しくルキの腕に手をやる。
「ルキ、勝手に来て悪かったけどさ。気になったから。お前って我儘だけど、自分から約束しておいてキャンセルするとさ、絶対俺んち来ないと思って。心配じゃん」
「…何で心配すんの。俺が約束破ってんのに。何で心配すんの」
「そりゃー、大事なダチだし、心配するって」
「…馬鹿だろって、思ってんだろ。れいたも」
「………」
「あの人に殴られてまで貢いで呼ばれたら行って、男なのに身体まで差し出して、馬鹿みたいだって」
「……そう思ってんの?」
「………思ってる。けど、やめない。好きだから」
「そっか」
腕を外したルキの顔は、殴られた後と、目が赤くなっていて。
腫れたら大変だぞ、って言いながら冷たいタオルを赤くなった所に当てた。
例えば、俺がルキを好きになって、やめろ、俺にしとけよって言えたら、ルキはここまで傷付かなくて済むんだろうか。
やめて欲しいよ。
何で俺との約束より、そっち優先すんのって思うよ。
ルキのそんな姿、見たくなかったよ。
お前は我儘でプライド高くて、もっと、気高いモンだろ。
それを突き崩す『京』って存在は、どれだけのモンなんだよ。
何で、そんな何でも言う事聞いてんの?
尊敬する先輩だって前から聞いてたけど、俺は嫌いになりそうだよ。
その人の事。
「…れいた、御免。また今度プレゼント買うから」
「…いつでもいいって。他に痛い所ねーの?」
「……ん、」
「後でプリン食おうぜー」
「どんだけプリン好きなんだよ…」
「ばっか、お前、プリン侮んなよ!」
少しだけ笑ったルキに安堵しながら、プレゼントは、あの人の所に行かないお前をくれよって思った。
親友以上に愛してやれる事なんて、出来ない癖に。
終
20140527
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