『元彼』の存在/京流
京さんは自宅で時間があればDVD鑑賞してて。
自分が買ったヤツだったり、俺が借りて来たヤツだったり。
好きなジャンルはあるんだけど、一応、何でも観るっぽい。
だから、俺らのバンドがDVD出して、サンプル貰って来ましたよーって言った時にディスク入れろとか言われて。
そんな京さんの気紛れ発揮して、急遽自分のバンドのDVD鑑賞。
まぁワールドツアーのダイジェストみたいなヤツだから、ライブとかほとんど収録してないヤツなんだけど。
2人で並んで炬燵に入って、食後の珈琲を飲みながら画面に視線をやる。
「…何やこれライブちゃうんか」
「あー…海外行ってた時の裏側を撮影した感じですね」
「ふーん」
「結構ホテルとか、ご飯とかしんどかったですけど、やっぱ海外は街並みも綺麗ですよね」
「外出んからわからん」
「あ、そっか。でもせっかく海外行ったのに、全然買い物とか出来なくて」
「…………海外から帰って来た時も買ったモン見せて来たやろが」
「え、全然買って無かったじゃないですか」
「……もうえぇわ」
京さが溜め息吐きながら呆れた視線を寄越して。
また画面に目をやる。
「何や普段のるきが喋っとるだけやな」
「化粧やセットしてないですからね」
「………」
「………」
あぁ、懐かしいなーって思いながら映像を観る。
これもう結構前だよな。
長い間金髪にしてたなー、とか。
そんな事を考えながら珈琲を飲む。
「………何やお前、あの布と付き合っとったん」
「…は?え?れいた?無い無い。無いですよ!」
「ふーん?」
「え、マジで!」
そりゃファンから仲良過ぎてそんな疑惑を持たれたりしたけど。
れいたもあの時は悪ノリで言って来ただけだし。
くっついて、俺の足に足を乗せて。
『元彼』とか。
「…何や仲えぇもんなぁ、いつも」
「確かに気が合うんでよく一緒にいたりしますけど、付き合った事無いし、俺には京さんだけですから!」
「へぇ」
「…何年も一緒にいるじゃないですか」
俺がガゼットを始めて、初期の頃に京さんに出会って。
それからずっと、京さんを追い掛けて来たんだから。
「ま、せやな。…『初めて』や無かったら、価値無かったしな、あの時」
「………」
あの時。
京さんが、俺の方に視線を向けて。
その言葉に、忘れられない、初めて会った日の記憶が蘇る。
それを考えただけで、動悸が早る。
始まりの日。
あの時から、男が恋愛対象になるなんて考えて無かったけど。
「…もしも、れいたと付き合ってたら、どうしたんですか」
「…さぁ。でも僕には要らんかったんちゃう」
「…じゃ、初めてが京さんでよかったです」
「よー言うわ」
DVDを観て無くて、俺の顔を見て笑う京さんに。
手を伸ばされて頬を掴まれ引っ張られた。
「い…ッ」
「はは、不細工やなぁ」
「も、京さん酷い…!」
「はいはい」
「はー…でもまだれいたと付き合ってる疑惑がマシですかね。京さんと、ってなって迷惑かかったら嫌ですもん」
「そんなん微々たるモンやろ」
「そうなんですよね。でもバンドやってると、ファンに付き合ってるって言われません?」
「………知らん。忘れた」
「気にしないに越した事は無いですもんねー」
掴まれた頬を撫でながら言うと、京さんの顔から笑みが消える。
しくったか。
俺でさえネタで言われんの微妙なのに、京さんの性格からしてかなり嫌だろうなって感じて。
「京さ、」
「煩い」
「すみません…」
「………」
…本当に。
京さんの触れたらいけない領域があるのはわかってるつもりでも。
それでも理屈じゃ無くて、嫉妬するんですけど、その領域に。
またテレビ画面を観る京さんの横顔を眺める。
好きだな。
だから何もかも、知りたいのに。
肝心な事は隠して、京さんは狡い。
でも、結局は惚れた方が負けだから。
「…重いんやけど」
「…すみません」
京さんの半身に寄りかかって。
鈍感なフリをしておきます。
終
20140302
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