2人の食卓/京流
朝。
言うても昼前の時間。
半分、昼夜逆転しとる様な生活で同じ業界で生活しとるるきとは似たような生活リズム。
お互い、昼から仕事で仕上がるまで。
やから夜中かもわからんし、夜には帰れるかわからん。
仕事漬けやったりするそんな生活で、こうも目の前の奴と長く一緒に過ごとんが不思議。
やって、何かコイツ煩いやん。
キッチンのテーブルで、2人向かい合ってるきが作った朝飯兼昼飯を食べる。
前日にも食った肉じゃがやってんけど。
後は切り身の魚とだし巻き玉子。
昔よりは上手くなったるきの料理。
もう食べ慣れた味で、普通に美味い。
「京さんてイブかクリスマス家にいます?」
「あー、わからん。リハ入っとるし」
「俺もなんすよね。でもクリスマスケーキ予約したいなって」
「今から?出来るん?」
「あ、一応は。スタッフにすげー可愛いケーキがある店教えてもらったんすよ…えーと、」
「………」
るきが食いよる最中に立ち上がって、スリッパをパタパタ言わせてソファに置いた自分のカバンを漁りに行った。
飯食っとる間ぐらい大人しく出来んの。
何枚かの紙を持って、僕の前にまた座る。
「これ美味そうだし、食べてみたいなって。京さんどうですか?」
「…え、ワンホール?」
「あ、はい」
「…僕とるきで?」
「他にいませんよ?」
「いや、いらんやろ。ワンホールも誰が食うん」
「1人半分ずつで」
「……」
るきが広げた紙は何かえらい装飾がされた可愛らしそうなケーキが印刷されとって。
はー…何や女が好きそうな感じやなー。
るきがスタから教えて貰う光景が目に浮かぶわ。
つーかこんなピンクでクリーム乗っとん半分も食えへんし…。
そんな事を思いながら、紙を捲るとその他のケーキも写っとって。
「僕こっちのがえぇ。こっちやったらフルーツようけ乗っとるしあんま甘く無さそう」
「どれですかー…?……苺タルトじゃないですか。無理です」
「無理ちゃう」
「俺、苺嫌いなんです」
「ふーん。やから?」
「こっちでいいじゃないですか」
「嫌。ほならクリスマス帰って来ん。どうせスタがケーキ用意するしそれでえぇわ」
「……京さんのバーカ」
「あ゛?」
「…じゃ、こっちの方頼んでおきます」
「ん」
別にるきが選んだ方のケーキでもえぇんやけど。
敢えてるきが嫌な方選ぶんが好き。
僕の言う事聞いて、嫌いなモンでも食べようとする。
そう言うスタンスが僕は好き。
その方がかわえぇやん。
屈折しとる僕の感情にちょうどえぇの。
…やからか。
コイツと一緒におる理由。
「今年はお節買えないですねー…京さんツアーだし。名古屋にいるし」
「去年のお節かなり残ったやん。いらんし」
「雑煮作っても京さんいねーし、正月」
「あ、でもそれ食いたいから餅買っとけ」
「はーい。正月って事務所的に休みなんですよね。俺も名古屋行くんで」
「…は?」
「俺も名古屋行くんで」
「………」
「楽しみです。年越し」
「……お前んトコも正月跨ぎで仕事入れたら」
にっこり笑うるきに溜め息。
来るな言うても僕のライブに来やがるんやけど。
意地でもパス出したらん。
出したらコイツ楽屋にまで挨拶来そうやし。
つーか来なアカンもんやけど。
「バレませんて。今までもバレてませんし」
「あっそ。知らん。るきなんか出禁になってまえ」
「それだけは勘弁して下さい」
楽しそうに笑って、自分が作った飯を全部食べたるきは食器ひ片す。
僕も食べ終わったから、僕の分も。
よう動くわコイツ。
「と言うワケで嫌じゃ無かったら添い寝に呼んで下さいね」
「添い寝やったらいらん。身体寄越せ」
「身体目当てっすか」
「当たり前やん」
「ひでー」
笑って立ち上がって、シンクに両手に持った食器を持って行くるき。
その姿を見送りつつ煙草を咥えて火を点ける。
「でも疲れてるでしょうから、俺の事は気にせずゆっくり休んで下さい。名古屋2日間あるし。俺もホテル予約しましたしね」
「……」
食器を洗い出したるきを見て、煙を吐き出す。
何やそう言われると、呼び出したらアカンのかって思うやん。
るきの癖に。
でも。
ずっと一緒におるるきやから。
僕のテリトリーに容易く入るんやろな。
自分がするであろう正月の行動を考えて、少し自嘲気味に笑った。
終
20101218
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