甘えた/京流
ライブツアーの中休み。
なるべく自宅に帰りたいし、帰ったら帰ったでるきも仕事でおらんし、睡眠優先でカーテン閉め切ってベッドで1人爆睡。
浅い眠りが全くなく、すっきりした感覚で眠りから覚醒した。
俯せ気味で横向いて寝とって、枕に腕突っ込んで寝る癖がある僕が、目を覚まして。
枕に半分顔突っ伏したまま、片目だけで見える景色を認識しようと視線を移す。
カーテン締め切っとるし、部屋ん中が薄暗い。
今何時か時間がわからへん。
それに何より、寝る時はなかった筈の違和感。
腹に腕が回っとって、背中にぴったりとくっつく熱。
誰かなんて疑う余地もなく。
るきがいつの間にか帰って来たんか、僕の背中にくっついとった。
段々意識が覚醒して来て、シーツの上を弄って携帯を手に取って時間を確認。
めっちゃよう寝たわ。
起きようと思っても、がっちりるきの腕が僕の腰に回っとって。
鬱陶しいから、全く筋肉も何も無いるきの腕を引き剥がす。
そんで起き上がったら、今ので目が覚めたらしいるきがちょっと声を上げて身じろいだ。
「…ん…、京さん…?」
「何」
寝起きで少し掠れた、低いるきの声。
薄く目を開けて僕の方に手を伸ばして僕の手の甲に触れた。
自分の身体を引き摺るようにしながら、ベッドに座った僕の膝の上に乗り上げた。
「おい、重いんやけど」
「えー…」
「寝んなクソガキ」
「京さん久しぶりー…」
寝惚けたままのるきは力が入ってない身体で僕に抱き付いて来て。
溜め息を吐いてるきの身体を引き剥がす。
るきはそのまままたシーツに沈んだけど、手は僕の手に重なった。
お互いツアーが重なって、地方回って自宅に帰って来ても擦れ違いで顔合わせんかったりとかして、るきの顔見るんは久々な気がする。
いちいち甘えんな。
いつもの事やろ。
ちょっと唸って寝転がったまま伸びをしたるきは、ばっちりと目を開けた。
「京さん、おはようございます」
身体を起こしたるきは目を細めて笑って、さっきとは違うしっかりした声で言うて来た。
ベッドの上のカーテンを開ける、けど陽は陰りかけならしく、うっすらと明るいだけやった。
「…はよ」
「お腹空きません?」
「空いた」
「俺も。何か作って寝ようと思ったんですけど、京さんが寝てたんで我慢出来ませんでした」
「何やのそれ」
「京さんの寝顔が好き過ぎて」
「キモ」
少し部屋ん中に光が射して、るきの顔がより見えるようになって。
その笑った顔が、僕に近付いて来て唇が触れるだけのキスして来た。
何か色々思ったけど、面倒やったから何も言わず溜め息を吐いてベッドから降りた。
頭を掻きながら洗面所に向かうと、眼鏡をかけたるきも後をついて来た。
代わる代わるに洗顔。
丸一日寝とったみたいなモンやし、逆に寝過ぎて怠いわ。
「腹減ったんやけど」
「あー…一応、材料は買ってますが、作るの時間かかりますけどいいですか?食べに行きます?」
「いや…もう外食はえぇわ。作れ」
「はーい、秋なんで秋刀魚買って来たんですよ」
そう言うるきは嬉しそうに笑って、少し寝癖が残る部屋着のまま鼻歌を歌いつつキッチンへ行った。
ツアーの移動やライブで疲れてへんのか、元気やな。
るきがツアー中にあった事なんかをマシンガントークしながら、珈琲サイフォンをセットして冷蔵庫から色々取り出した。
るきの声を何となく聞きながら、リビングのソファに座って携帯をイジる。
あー何か。
まだツアーは残っとるけど、日常に戻って来た感じするし、中弛みしそう。
秋は秋刀魚ですよね、ちょっと安くて、とか。
緊張感も自分が置かれる状況も忘れる程、緩いるきの声を聞きながら軽く欠伸をして。
ちょっと会えんかったら必要以上に甘えて来るウザい事とか。
この生活が嫌いやない自分に、るきを見てちょっと溜め息を吐いた。
終
20121029
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