愛人形/京流
自宅で仕事すんのも癖になってて。
まぁ家事とか色々やる事あるから、そんなにパソコンに向かう時間をずーっと取れる訳じゃねーけど。
テレビニュースを頻繁に見れねーから、ネット上のニュースを見たり。
そう言った意味でパソコンは良く見てる方か。
今日は仕事行く時間が夕方からで、京さんも似たような時間だったし、昨日ってか今日朝方に帰って来た京さんはまだ睡眠中。
仕事まではまだ時間はあるし、ギリギリになって起こせばいいかって思って、ご飯作ったり、部屋掃除したり洗濯したり。
一通りの家事をこなして、煙草を吸いながらネットサーフィン。
少しの事柄でも歌詞に繋がるかもしんねーし、色んな事に目を向けておきたいし。
珈琲を飲みながら、パソコン画面に目を向けてると。
寝室のドアが開く音。
あ、京さんが起きて来たんだ。
予想よりちょっと早いな。
何となくその音に耳を済ますと、トイレへ行って、洗面所に行って顔を洗って。
このリビングに来る姿が容易に想像出来た。
「おはようございます、京さん」
「………はよ」
「珈琲いります?お腹空きません?」
「いい。いらん」
「はーい」
京さんは寝起きの気怠そうな表情で俺が座ってる後ろのソファに身を沈めると緩慢な動きで煙草に手を伸ばし、1本咥えて火を点けた。
部屋着のまま、だらけた姿で煙草吸ってる休日のお父さんって状態なのに、絵になるのは何でだ。
京さんは何してても格好良い。
そう思って、iPhoneを構えて写メろうとしたら凄い嫌そうな顔で睨まれた。
…から、撮る前にiPhoneを下げる。
残念。
「あ、京さん京さん、ネサフしてたら面白いもの見つけたんですよー」
「……」
俺がまたパソコンに向き直ってキーボードを打つ。
京さんはボーッとしたまま煙草を吸ってて。
寝起きは無防備だなって思った。
「これ。最近のラブドールって、すっげーリアルじゃないっすか」
「は?何…」
「ラブドール。わかりやすく言えばダッチワイフなんですけど、シリコン素材で一体50万から60万ぐらいするそうですよ」
「ふーん」
「ダッチワイフにするんじゃなくて、鑑賞用とか、服着せ替えて写真撮影とかするらしくて。そう言うイベントに女性も増えてるらしいです」
「欲しいとか抜かしたら追い出すで」
「いりませんよ!部屋にあったら怖いじゃないですか」
「何やチンコ使いたいから強請るんかと思ったわ」
「別に京さんがいるから必要ないです」
京さんは俺のパソコン画面を目を細めて見て、呆れた様に俺に視線を向ける。
本物の人間に似せて作られた人形。
ダッチワイフ以上の存在になったりするらしい。
そう言うので、歌詞が膨らむかなって思ってよく読み込んだりしたんだけどね。
「あ、でも京さんそっくりのラブドールだったら欲しいです」
「…うわぁ」
「えー…ダメですか?ツアー中とか、会えなくて寂しい時とか…京さんの代わりで。ラブドールなんで、どうせなら京さんの型どったディルドをアタッチメントとして付けて、」
「…そんなん家に届いた時点で一緒に追い出すで」
「えっ」
「当たり前やろ。きっしょい事抜かすな」
「想像でぐらい喋らせて下さいよ」
「無理。本物より人形がえぇなら出て行け」
「京さん本人がいいに決まってるじゃないですか!」
「当たり前やろ!何でお前がキレ気味やねん!」
実際本物には敵わないのはわかってるけど。
こんな精巧に出来てんだったら京さん型の欲しいなー。
…いや、それはそれで本物じゃねーし、虚しくなるだけか。
ちょっとヒートアップした言い合いになって、京さんはさっきより目が覚めたみたいだった。
背凭れに身体を預けて手で顔を被って溜め息を漏らした。
「はー…寝起きに何やねんこの会話…だる…」
「いやでもこう言う世界もあるんだなって思いません?」
「お前は好奇心旺盛過ぎるわ」
「それ程でも」
「誉めてへんからな、このアホ」
「あはは」
呆れた京さんの視線に見下ろされて、笑い返す。
やっぱ本物の京さんの方がいいね。
呆れた目で見られるのとか、大好きだし。
人形じゃ、こうはいかねーよな。
でも遠征時、寂しいから欲しいなーって思うのは本音で内緒にしておこう。
せめて型どりさせてくんねーかな。
終
20121019
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