前々日/京流
行為が終わった後の、気怠い感覚の中。
ベッドの上で俯せでぐったりしとる、使い物にならへんるきを置いて下着だけ身に付けてキッチンへ向かう。
冷蔵庫を開けて、ペットボトルの水を取り出す。
冷蔵庫の中はもう食材なんか入っとらんくて、そう言えば僕らんトコも、るきんトコもツアーが始まるんやなって思った。
るきのが早いらしいけど。
冷蔵庫を閉めて水を飲みながら寝室へ戻ると、るきがちょっと身体を丸めた格好で寝転がっとった。
まだ全裸やけど。
コイツ風呂入らなヤバいやろし。
またベッドに座って、無言で水を差し出したら。
るきがちょっと掠れた声で有難う御座居ますって言うて、ペットボトルを受け取って一口飲んだ。
また僕に返されて、ベッドサイドにソレを置く。
代わりに自分の煙草に手を伸ばして1本咥えて火を点けた。
「声ヤバいな、お前」
「マジで、…あー…ホントだ。もうすぐツアー始まんのに」
「喘ぎ過ぎやからやろ」
「だってー…これから暫く会えないって思うと。あー京さんのライブ行きたいんですけどー…」
るきが何か唸りながら僕の方に転がって来て、胡座を掻く僕の膝に手を置いた。
お互いツアー始まったら、ほとんど擦れ違い生活やし。
それがわかっとんか何なんか、今日のるきは恥も外聞も無く声を上げとって。
ほとんど寝る時間ない程ってどう言う事やねん。
まぁ僕自身、自分のツアーは把握してへんから行くままなんやけど。
るきが自分のツアー日程と照らし合わせてぶつぶつ言うとったな。
煙草の煙を吐き出しながら、ちょっと腕を伸ばして灰皿に灰を落とした時。
背中に温かさと重み。
身体を起こしたるきが、背中から抱き付いて来た。
背中で、るきが擦り寄る感覚。
「…何」
「んー…京さんの匂い」
「きっしょい事言うな、離れろ」
「いーやーでーすー」
「……」
るきの表情は見えへんけど、るきの楽しそうな声色。
首筋や肩に唇が寄せられる感覚がした。
溜め息吐いて好きにさしとると、るきはぴったり身体をくっつけたままで。
「…ホント、行きたかったです。京さんが歌う所を見るの」
「……」
「よかったって、思うから」
「……」
そんなん。
今回が最初で最後な訳やないんやから、いつでも見えるやろ。
お前は人の言う事聞かへんから、勝手にライブ来やがるんやから。
このアホ。
少しの沈黙。
僕が吸う煙草の紫煙と、密着し合う肌と2人の鼓動。
「あー…でも京さんのライブは見たいんで、スケジュール空いて見に行けたら行きますから!」
「来んでえぇわ。自分のツアーだけ考えてちゃんとやれ」
「それも抜かりはありません。京さんのステージに立つ姿見たいんですホントに」
「もー嫌やわーコイツ」
後ろで何かほざくな。
吸っとった煙草を灰皿で揉み消す。
同業で、一緒におって嫌な事も、気の遣い所がわかる事も。
最初以外は何も言わず、僕の事を考えて行動しとったんもわかっとるけど。
その返しはステージで見せたるから、勝手に来たらえぇよ。
いつもそうやん、お前。
溜め息を吐いて、僕の身体に絡み付くるきの腕を解いて。
後ろを向いてそのままるきをシーツの上に押し倒す。
あんま力の入らんるきは、僕のされるがままにベッドに沈んだ。
僕を見上げて、柔らかく笑う顔。
甘える様に僕の首に両腕が回されて。
「京さん、好き」
「知っとる」
るきの掠れた声が、言葉を紡ぐ。
もういっそ、声が出んくなるまでしたらアホな事も言わんくなるやろか。
こんなトコでグダグダ言うとらんと、行動で示してみ、るき。
そう思うと、どうせ今から寝られへん時間やし。
まだいけるやろって事で、るきの唇に噛み付いて足を開かせる。
僕の行動に目を開いて、笑みの形に細めたるきの表情に、何となくムカつきと愛しさが交差した。
終
20121009
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