京さんと俺/京流




ただ単に気紛れだとは思うんだけど。

京さんて、目の付く所に俺が載ってる雑誌置いておいたら見てたりするから。
だから事務所からサンプルで貰う雑誌を持ち帰って、わざとテーブルの上に置いておいたりするんだよね。


だってやっぱり、アートワークに拘った写真だとか、インタビューされて発した言葉とか。
自分が自信を持てるものだし、好きな人には見て欲しいって言うかね。

京さんが載ってる雑誌はデカい本棚に並べてるんだけど、それを始めてから自分の雑誌も増えて来た。
自分で見返す事ってあんまないけどね。


キッチンで洗い物をし終わって、珈琲を2人分淹れて京さんのいるリビングに行く。
ソファに座る京さんは俺の載ってる雑誌をじっと見てて。

京さんの分のマグカップをテーブルに置いて、隣に座る。
京さんに寄り添って一緒に京さんの見てる雑誌を覗き込む。


京さんは視線だけ一瞬俺に向けて、また記事の方に戻した。


「京さん、俺格好良いですか?」
「………」
「ねー京さん」
「…詐欺やろ」
「えー?」


そりゃメイクしてるし衣装着てるし、全然違うけど。


少し飲んで珈琲をテーブルに置いて、京さんの腕に身体を寄せる。
最近は寒くなって長袖になったから、素肌じゃ無くなって刺青見えなくて残念。


「京さん、どの写真がいいと思います?」
「…別に」
「これとか超良く撮れたと思いません?よくカメラマンさんに大人っぽくなったとか、色気出て来たって言われるんですけど」
「ふーん…髪長い」
「あー伸びましたもんね」


覗き込む様にして、横からちょっかいかけてると京さんは溜め息を吐いて俺の方を見た。
片手が俺の髪に触れる。

先端を金髪にして、ツートンにした髪。
気を付けてはいるけど、ちょっと傷んで指通りは悪い。


「何でツートン」
「気紛れです。似合います?」
「ふーん」
「また変えますけどね、飽きたんで」
「お前飽き性やもんなぁ」
「新鮮さを求めるんです」


京さんの手が髪を撫でて首筋を掠めたからぞわっと背筋から何かが這い上がる。
ちょっと身を乗り出した時、京さんが読んでた雑誌を閉じて置こうとした時、舌打ちをして顔を歪めた。


「え?」
「ウザ。指切ったわ」
「あー…紙で切ると地味に痛いですよね、大丈夫ですか?」
「大丈夫なんちゃう」


嫌そうに眉を潜めて、自分の指を見た京さんの薬指。
指の腹に1センチちょっと赤い線があって、ぷっくりと血が出て来た。

京さんのその手を取って、血が出てる薬指を口に含む。
口内に鉄の味が広がった。

京さんの傷を舌でなぞると、俺の行動をじっと見つめてた京さんが目を細めた。


切ったばっかだから痛いのかもしれない、と思いつつ、昔にしてた事が若干甦る。


「ん…っ」


含んだ指を更に奥へと突っ込まれて、俺の上顎を撫でた。
口の中の粘膜が感じるなんて、この人とするまで思わなかったな、とか思いながら丁寧に京さんの指を舐める。

今はそんな事ないのに、京さんの血の味を感じると昔の様に隷属した気分になるのは刷り込まれた事だからか。

吐き気が込み上げるのに眉を寄せると、京さんの口元が少し笑った。


「…糞ガキが色気づきやがってな」
「…ッふ、」


京さんの所為じゃん、確実に。


今の俺は大半を京さんと過ごして、京さんによって作り替えられた身体で。


仕事でも何でも、雰囲気が変わっただとか。
変化を見せられるなら嬉しい。


口内から出て行く京さんの指に名残惜しげに舌を伸ばして追い掛ける。


「…京さん、」
「あー…、お前、何か今日ムカつくわ」
「ッ…!」


わざと媚びた視線を向けると、京さんがスッと目を細めた。


さっき優しく撫でられた髪を強く掴まれて痛い。
乱暴に扱われると興奮する。


京さんも昔を思い出したんだろうか。
以心伝心みたいで嬉しい。


髪を掴まれて上向かされ、ソファの背凭れに押し付けられる。


「着飾ったお前より、こっちの方が惨めでえぇよ」
「…っ」


答える為に息を吸うより早く、京さんに唇に噛み付かれた。


そりゃ、もう。
京さんに調教された、俺ですから。




20121004



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