残暑の夜/敏京




「あ、京君、花火、花火あるよ」
「あー?」
「公園でやろうよ。今年全然花火大会行け無かったじゃん」
「そんなガキやあるまいし、」
「はい、けってーい。じゃ何かお酒買ってこ」
「おい、」


仕事帰りにいつものコンビニ寄って。
差し入れとか食べたからあんまお腹空いてないねーとか言いながら適当につまみとか、京君はお菓子とかカゴの中に入れる。

片隅に、夏の売れ残りで半額になった花火を見つけて。
毎年何だかんだ、京君と花火大会行ってたけど今年は行って無いなーって思って、あんま乗り気な返事をくれない京君をスルーして、花火セットをカゴに入れる。

適当なチューハイとビールを買って、会計を済ませて。
歩き慣れた道を京君と歩く。


近くに人工的に作られた公園があるし、そんな夜中って時間でもないし花火しても大丈夫だよね。


「京君、あそこ行こ、あのベンチん所!」
「はー…しゃーないなぁ、敏弥は」
「うん」


公園に着いて、街灯の下のベンチを指差すと仕方無さそうに溜め息を吐いてさっさとベンチへ向かう京君。
口では文句言いながらも、受け入れてくれるってわかってるから、ちょっとした我儘も言えるんだよ。


「京君どれやるー?」
「えーどれでもえぇよ」
「んー。まぁ打ち上げじゃねーし、どれも似たようなもんだよね」


花火セットを開けてると、京君はベンチに座って買った烏龍茶を飲みながら俺の方をじっと見てた。


「はい、京君これ持って」
「えー…」
「はいはい。点けるよー」
「おー」


京君に無理矢理花火を握らせて、ライターで点火。
すぐに火花が吹き出して、色を変える。

自分のも火を点ける。
微かな音と共に花火が光るけど、結構あっと言う間に終わった。


「…ちょぉこれ終わるん早ない?」
「こんなモンじゃない?」
「……。敏弥、何本か一気に寄越せ」
「別にいいけど、すぐ無くなっちゃうよー?」
「えぇやん。ちまちまするモンちゃうやろこんなん」
「京君おっとこまえー」


立ち上がった京君に、似た長さの花火を数本手渡す。


「全部にライターで点けるの怖いから、後は花火同士で火点けてね」
「おー。……敏弥の炙り焼きー」
「ちょ、京君!花火は人に向けちゃダメだろ!」
「ははッ」


数本の花火に火を点けたら、京君が俺に花火を向けて来たから思わず飛び退く。
それでも楽しそうに笑う京君から花火攻撃を受ける。

くそぅ、可愛い。

じゃなくて、火花結構熱いんだけど!


後ずさりで逃げる俺に追い掛ける京君。


でもまぁ、花火はあっと言う間に終わっちゃうんだけどね。


「あ、終わってもうた」
「もー!京君のバカー!」
「うわっ、こっち来んな敏弥!」


次は俺が追い掛ける番。
逃げる京君を追い掛けて腕を掴む。
すぐ捕まった。

だってどう考えても俺の方がリーチ長いし。
捕まらない方がおかしいでしょ。


「もーウザいわ敏弥」


捕獲した京君は、腕の中でそんな事を笑いながら言って。
軽い拘束の俺の腕からするりと抜けた。

残念。


「ッあー…もう、アホらし。大の男2人が何やっとんねん」
「あはは。でも楽しいでしょ」
「全然」
「またまたぁ。素直じゃないなー、この口は」
「ちょ、やめろや」


ま、そこが可愛いんだけどねー。

ちょっと屈んで、京君の頬をうにうにすると。
京君は嫌がって払われた。


「お前さ、僕ん事ガキ扱いし過ぎちゃう?」
「えー?違うよ、可愛がってんの」
「それがガキ扱いやん」
「可愛がりと子供扱いは違いますぅ。愛してるから可愛いと思っちゃうんですぅ」
「うーわ、ムカつく」


それでも、俺に愛されるのが嫌いじゃない癖に。


ちょっとベンチから離れたから、また戻って買ったチューハイを開けて一口飲む。
残りの花火をやって(京君は何度となく俺に花火を向けて来たけど!)京君が楽しそうだったから、俺も楽しかった。


大好きな京君と過ごすのは、何しても楽しいもんだよね。




20120905



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