夏祭りA/京流
歩くんめんどかったからタクシー拾って行き先を告げたら、途中までは乗せられたけど、渋滞でこっからは歩いた方が早いって言われて降ろされる。
会場に近付くにつれて人混みが酷くなって来て、早くも出て来た事を後悔した。
るきは浴衣に下駄が歩きにくいんか知らん、遅い。
たまに小走りになりつつ僕の隣でいつもの様にマシンガントークを繰り広げるるきに、適当に相槌を打つ。
暑い。
人多い。
帰りたい。
「あ、京さんたこ焼き売ってる!たこ焼き」
舌打ちすると、るきに腕を軽く叩かれる。
視線を向ければ、びっしり並ぶ屋台の列が見えた。
もう暗くなる時間帯で、明かりが並ぶ屋台を見てるきの声色がテンション上がった。
「あー…はいはい、たこ焼きやね」
「え、おでんとかも売ってんだけど。夏におでんって!久々にこう言うトコ来たんですけど、今って何でも売ってるんですねー」
「ふーん」
「ってか今時間…、…あれ、そう言えば俺iPhone…持って来ませんでしたっけ?」
「あー…」
るきのiPhoneやったら玄関に置いたわ、そう言えば。
別にいらんやろ、こんな浴衣着て仕事ありましたーって事は無いやろし。
「家にあるんやない?つーかはぐれたら終わりやな、お前」
「え、確かに家の鍵も何も持って来てねぇ…。京さんはぐれないで下さいね」
「知らーん」
るきが僕の腕に手を添えた。
まぁ人がかなりおるし、はぐれたら携帯あっても合流するん困難かもな。
わざと突き放して1人にしてやりたい思いが込み上げて来たけど、後からめんどくさい事になりそうでやめた。
「あ、串焼き」
「なん、食いたいん」
「…まぁ」
「……」
るきが見た屋台に近づいて、何種類かある串焼きを2本、勝手に注文してるきに受け取る様に促す。
「あ、有難う御座居ます」
「他何か欲しいん」
「えっ、買ってくれるんすか」
「いらんならえぇけど」
「じゃ、かき氷と林檎飴」
「…林檎飴って、林檎不味いやんな」
「あー確かに。でも祭りだと買っちゃうんですよねー」
るきは何も持たずに出て来たし、僕も腹減っとるから適当に屋台のモン買って。
2人で歩きながら食べる。
何かるきが嬉しそうにしながらあれこれ欲しい抜かすから、めんどくなって金やるから自分で買って来い言うたら。
僕に買ってもらうのがいいって訳わからん事言われた。
色々な食べ物買って、ちょこちょこ食べよったら意外に腹いっぱいになったし。
「京さん、今何時ですか?」
「んー…20時前」
「あ、じゃぁそろそろ始まりますね、何処で見ます?」
「人おらんトコ」
「…それは無さそうですね」
端っこ行きますー?ってあんま屋台とか無いトコ行ったけど、他の奴らも花火見る為にシート敷いとるんもおるし、何処行っても人多い。
何これ。
何で僕は此処におるんや。
溜め息を吐いて、隣を見るとるきが青っぽい色のジュースを飲みながら嬉しそうにしとった。
何が楽しいんや。
「あ、京さんもうすぐ始まりますよー」
「はいはい」
何か放送が流れて、デカい音と共に花火が打ち上がる。
結構何発も。
「う、わー…すっげ…」
「……」
打ち上げられた花火に、るきが思わず感嘆の声を漏らした。
いつもはマンションから見たりして、こんな間近で見てないから花火がめっちゃデカく見える。
「京さん、携帯貸して下さい」
「何で」
「花火写メりたいです」
「……」
ポケットから携帯を出してるきに差し出す。
したら、どうやってカメラにするんか聞いて来たから、カメラを立ち上げてやった。
有難う御座居ますって笑って、るきは携帯を構えて空を見る。
「あ、あー…綺麗。あ、でもちょっとブレた。これモード変えた方が上手く撮れっかな…」
「………」
何かるきは花火見るより写メるんに真剣なっとって、るきらしいっちゃーるきらしいけど。
お前何しとんねんって思う。
浴衣着て花火を見上げるるきは、いつも見とるるきとは違う感じがして。
こう言うイベント事は、場所も変われば雰囲気も変わるなぁってぼんやり思った。
浴衣から覗く首元や手首のシルバーアクセはいつも通り変わらんけどな。
「あ、これは綺麗に撮れた!京さんこれ後で俺の携帯に送って下さい」
「あ?あぁ、つーかはしゃぐな。名前呼ぶな」
声デカいねん。
るきから自分の携帯を受け取ってポケットにしまいながら言う。
何で僕はるきを見とったんやって思って花火に視線を戻す。
「あ、そうですよね。京さん刺青全開だし」
「一緒に花火見とるとか、ファンに見つかったら笑えへん冗談やわ」
「確かに。ネットに流れたら怖ぇえ」
「まぁ憶測でしか無いからどうでもえぇけど」
「あはは。まぁ俺は京さんとデートしてますって感じで楽しいですけどね」
「デートて…」
「うわっ、何あれすげー、京さん見て見て!」
笑って僕を見たるきが、何発もの音と共に連続で乱れ打ちみたいに上がる色とりどりの花火に楽しそうな声を上げて僕の腕を掴んだ。
…まぁ、この人混みん中、みんな花火に注目しとるやろから別にえぇけど。
じっと花火を見上げる事、数十分。
最後のピークなんか凄い音と共に何十発も上がる。
何かこの歳になって、るきとこんな風に花火見るとか想像出来ひんかったわ。
「はー…疲れた」
「すげー綺麗でしたね」
「…せやね」
「また来年も来ましょうね」
「嫌。家から見ろ」
「えー。あ、お土産に綿菓子買って下さい」
「太るぞデブ」
最後に綿菓子買って、元来た道を戻る。
アホみたいに人がおって進まへんから、来年は絶対来ぉへんって心に誓った。
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[mokuji]
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